第21話 「人は見た目じゃないと言うけど」

深夜2時、繁華街からは離れ、ひと気のない場所で乗って来た。

男二人と女一人。

そのうち一人の男は腕まで見えるくらいタトゥーが入っている。


時間帯といい、乗る場所といい、見た目といい、

どうしても偏見なしに見ても良くは思えない。

時たまある警戒したくなるお客様。


タトゥーのお客様は助手席に座る。

時間も時間、場所も場所、見た目も見た目、

全てを含めたうえで助手席。

警戒心が高まるはずだが、何故か消えた。


そのタトゥーのお客様に、柔和で温かなモノを感じた。

フィーリングと言うべきものかもしれないが、

「なんか喋りやすい」「なんか合う感じする」

その類いのやつ。


乗って早々、ネームプレートの僕の名前を気になって聞いてくるところも

警戒心を拭うのに役立った。


人懐っこいのかもしれない。

今思うとそう感じる。


目的地へ向かう道中は、見えてくるお店での思い出をあれこれ語る。


10m進むたびに、

「この店は誰々と初めて会った」

「このお店は頑張ってお金払ってお蕎麦食べた」

「このお店ではよくリリックを書いていた」


いろいろ面白いが、リリックを書いていたというあたり、

ラッパーなのかもしれない。


中でも気になったのは、

「裁判沙汰を起こしたお店」

というエピソード。


深夜2時、繁華街から離れたひと気のない場所、タトゥーの入った男。

警戒心を持たずにはいられない状況で

タトゥーの男は助手席に乗って来た。

警戒心は拭えたが、あれこれ道中のお店でのエピソードを語る中に

一つ気になるものがあった。


「裁判沙汰を起こしたお店」という思い出。

話を聞いていると、

助手席のタトゥーの男が酔っぱらって揉め事のなかで殴ってしまい、

慰謝料を請求されるハメになったそう。


その時に、後ろに乗っている男に弁護士を紹介してもらい、解決する。

という後ろに乗っている男とタトゥーの男の初めての出会いであり、

救ってもらった出会いだとか。


酔って、揉めて、殴ってしまう。

は定番であり、何度かあるそう。

見た目からいくと、そのことに驚くことはなく

警戒心も高くはならなかった。


何がそんなに警戒心を拭いさるのか、

決定打はないまま目的地に到着した。


支払いを終え、降りる時、

タトゥーの男は「ありがとうございます」と丁寧に言った。


見た目は良くても横柄な奴だっているからな~と、

決定打を得た嬉しさの余韻に浸りながら見たタトゥーの男の後ろ姿は

ガラの悪い歩き方だった。


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