第7話 「ヤクザと思われる方をお乗せした時の会話」

六本木で、厳ついグループの60代くらいの男と30代の男が乗って来た。


その時に後ろでされていた会話。




「俺たちは何をやっても常に悪く見られる。


だけどな、感謝の心を持って人と向き合っていかなきゃならん」




「はい、そうっすね!」




「俺なんかいつも近所のおばちゃんと会話してるぞ、


今日も天気いいねとか、顔色が良いねとか、」




「へぇ~、そうなんスね!」




「特別なことじゃないんだよ、小さなことで良い、花が咲いたから


綺麗とか、そんな些細な会話をしてるか?」




「いや~、してないっス!」




「そうだろ?お前親は?」




「います!」




「連絡とってんのか?」




「いや~全然とってないッス!」




「馬鹿野郎!お前何やってんだよ。親には一番感謝しねぇといけねぇぞ」




「はい」




「お前誕生日いつだ?」




「来月です」




「じゃあ、その日、親に電話しろ」




「え、電話っスか?」




「あたりめぇだよ!生んでくれてありがとうってちゃんと伝えろよ!


だれのお陰でいままで生きてこれたんだよ」




「いちおう、親っス」




「そうだろ?」




「はい」




「だったら伝えろよ!」




「わかりました」




「うちの若いのもなぁ、親と連絡とってなかったんだよ。


だから俺が怒って誕生日に急に電話させたんだ」




「はい」




「その親はな、正直まともにその若いのを育ててこなかったんだよ。


だから関係も悪かったんだけど、


生んでくれたのは変わりねぇから電話しろって」




「はい」




「そしたら、親は大号泣だよ!それまで連絡も取ってない息子から


ありがとうって連絡来るもんだから」




「へぇ~、良い話っすね」




「俺がうちの若いのに言ってるのは、まず親に感謝しろ、


誕生日には感謝を直接伝えろって言ってんだよ」




「はい」




「育てがどうこうとかはあるけどな、


親が生んでくれなきゃ、みんな今いねぇんだぞ」




「そうっスねぇ」




「だから来月は絶対電話しとけ、親は絶対喜ぶから」




「わかりました」




そして30代の男は降りて行った。




今度はおじさんと私の二人きりだ。


早速話掛けてくる。




「運転手さんは若いよね?いくつ」




「そうですね、25なのでタクシー運転手としては若いです」




「そうだよな、親は生きてんのか?」




「はい、生きてますね」




「二人とも?」




「はい」




「さっきの話聞いてたと思うけど、運転手さんも親には感謝しなよ?」




「はい」




「誕生日には直接電話して『生んでくれてありがとう』って」




「はい、そうします」




「絶対喜ぶから!感謝が大切だからな」




「はい、ありがとうございます」




ここで目的地に到着した。




「じゃあ、お釣りはいいから、大変だろうけど頑張れよ!」




そう言って右手を差し出し、握手をした。


力強く、相手を想う心を感じ取れる右手に


こちらも感謝を込めて強く握り返した。




本当はもう少し会話があったが、そこは割愛。








もしかしたら、


言いたいことがある人もいるだろう。


ヤクザだから・・、普通の事してるだけ・・・。




一言だけ言えるのは、


こんな会話をしたのも、握手をしたのもこのおじさんしかいない。




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