第5話 梨

 8月の終わり、大きな甘い梨を4つも頂いた。梨は夫の好物。早速、夕食後に剥いて出した。


「君、梨を剥くのヘタクソだね」

「なっ……!」

「この真ん中のところ残ってるから酸っぱいじゃん! きちんと切り取らないと」

「……」


 事実だった。


反論できず無言で立ち尽くす私。


 しかし……。


 『梨を剥くのがヘタクソだと? りんご剥くのとそう変わらんわ! 本気でやればできるもん!』と、内心、苛立っていた。


 私は、次の日も、次の日も、頂いた梨を夕食後に剥いた。熱心に、慎重に、丁寧に。悔しい思いを、もう2度としないように。


 夫は「美味しい~!」って、満足して梨を食べたさ。


『ふんっ! 見てみろっ! 本気でやればできるんじゃっ!』


 と、心中ガッツポーズ。それを夫に見抜かれないように、どやオーラを調整し、いたって涼しげな顔をしたさ。


 こんな子供じみた阿呆っぷりを、数日心の中で繰り広げていたことは、恥ずかしくて誰にも言えない。また、その数日の間は、結婚指輪をしないで出かけていた。


 ささやかな反抗だ。


 「ヘタクソ」という言葉は使わない方がいいと思う。あんまりだ。


  *


 梨は、「涼性」。秋の、乾燥し始める季節に良い果物です。発熱後の喉の渇き、空咳、喉の炎症に良いです。


 また、梨は、酒毒を出すので、二日酔いの時にもオススメです。


 家族の誰かが、酒を飲みすぎてベロンベロンになって帰ってきたら、「節度という言葉を知らんのか! ボケー!」と思いながらでもいいので、梨を剥いて出してあげてください。


 その際、真ん中の芯周辺は残さず、しっかりと切り取りましょう。残っていると酸っぱいので……。

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