第2話 大葉とピーマン

 我が家には、ささやかな庭がある。毎年、夫はそこに、ピーマン、ししとう、大葉などを植える。夏の間の私の日課は、庭に出てそれらを収穫することだ。至福の時である。


 *


 今年の初夏。ホームセンターから帰ってきた夫を玄関に迎えに行った。夫は、玄関にしゃがんで、ビニール袋から苗を取り出し並べ始めた。


「これは、ししとう、これはピーマン、これは大葉、これはパプリカ」


「!」


「君はパプリカが好きだからね~。こっちが黄色いパプリカ、こっちが赤いパプリカ」


「!」


 1つ1つの苗に指差し説明するその背中を見ながら、この人と結婚して良かった、と思った。久々だった。


 私は、パプリカが好きだ。


 *


 8月。夫が植えた野菜は、無事にすくすくと成長し、実をつけた。


 毎日、庭に出て、風を感じ、空を見上げ、太陽を眩しいと思う。幸せだ。大葉に手を伸ばせば、バッタが乗っている。虫に食われてしまって、穴が空いている大葉を、何故か、主に摘んだりする。


 ししとうやピーマンは、すぐに焼いて頂く。収穫したばかりの野菜はとてもジューシーで美味しい。そういう幸せを味う時に、やっぱり自給自足に憧れるな~と、叶わぬ夢を見たりする。


 そして、パプリカ。最初に緑色のピーマンみたいのが実るんだけれど、それが徐々に赤や黄色に変わっていく。素敵だった。来年は、オクラを植えて欲しいと夫にリクエストした。私はオクラの花が好きだ。


 さて。


 大好きな大葉を毎日千切りにして料理に使って食べた。大葉は薬膳的に「温性」なのに……。私は温性のものを食べるとのぼせるのに……。油断したのだ。ずっと体調が良かったのでうっかりしていた。


 案の定、冷えのぼせの私は、のぼせ始めた。なのに、油断しているものだから、ちっとも大葉が「温性」だという事を思い出さなかった。「夏だもの、暑いから……」と、食べ続け、肌が荒れ始めたところで、やっと、それにしてもおかしいと途中で思った。


 体の中の余分な熱は、あらゆる悪さをする。頭にこもった熱は、頭痛、鼻づまり、鼻炎、吹き出ものに。お腹にこもった熱は、腹痛に。少しずつ、それらの兆候があらわれていた。


 油断しすぎていた。


 ピーマン、ししとう、パプリカ……それらもみんな「温性」だった。「夏野菜は体を冷やす」という一般的な考えとはまた違い、薬膳では、夏野菜の中でも「温性」「涼性」「寒性」があるのだ。


 収穫の喜びを味わいたくて、庭にある温性の夏野菜を食べ過ぎてしまった。


 現在、首に熱がこもっている。もう止めてくれと、思うくらい顔がほてる。がっかりだ。油断した自分を呪いながら、頭の熱を取るのに天才的なトマトジュースを飲んでいる。


 しかし、私のようなに極端な体質でない限り、大葉もピーマンも素晴らしいパフォーマンスをする。


 大葉は、冷えを取り除くので、エアコン負けした時などには良いし、胃腸の働きを回復させ、花粉症の緩和、アレルギー症状にオススメ。


 ピーマンは、憂鬱を解消! 心を穏やかに鎮める作用があり、精神安定させる。意外でしょ。知人にそれを話したら、やってみる!って、毎日ピーマン食べていたそうな。「ちょっと気分が楽なんだよな~」と報告してくれました。ピーマンは、また、動脈硬化の予防と、胃腸の調子を整えるのにオススメです。(ちなみに、パプリカも、ししとうも、ピーマンと同様の効果があると考えられています)


 夏野菜は、天才か!

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