第九章 神の国で愛を求める(2)一番のぜいたく
ラミザは急制動と急加速を駆使し、艦内にわざと高重力を掛け、半径の短い転回軌道を取った。
敵旗艦メツァカゴスへの突撃コースだ。
「敵は主砲発射後で油断しているはず。まずリサ、敵の防御壁を貫通彗星砲で破壊して」
「了解」
リサはそう答え、ありったけの空冥力を込めて主砲を撃った。敵旗艦メツァカゴス正面の防御壁が破砕され、艦が丸裸になる。
シズが情報を伝達する。
『ラミザ艦長、後方より敵戦闘艦二隻及び戦闘機三機が襲来。おそらく、攻撃母艦から緊急脱出した残りかと』
それを聞いたラミザの反応は早い。
「フィズナー、副砲を後方へ向けて。拡散彗星砲で敵からの攻撃を潰して。遊撃艦バーレアはこのまま前進!」
フィズナーはその指示に従い、手元のレバーで副砲を回転させ、後方から迫り来る敵や、その攻撃を潰していく。
ラミザの空冥力によって遊撃艦バーレアは再加速し、敵旗艦メツァカゴスにぶつからんばかりの勢いで疾走する。そして、衝突直前のところで回避し、敵艦橋すれすれを飛行する。
ラミザが叫ぶ。
「ベルディグロウ!」
「承知した」
ベルディグロウの担当兵装はいままさに、このときのためにあった。
近距離攻撃用破砕斧。
これはいわば、攻撃時のみ機体から飛び出す、巨大な接近戦武器だ。ベルディグロウにとってみれば、彼の大剣の何十倍もの空冥術
ベルディグロウは空冥力を全開にし、遊撃艦から伸びる巨大な斧で敵艦メツァカゴスを切り刻んでいく。どう切り刻むかは、操舵しているラミザの機動次第だ。
完全に艦橋を切断し、敵旗艦の管制能力を完全に奪ってしまう。
「仕上げよ、リサ」
ラミザに言われるがまま、リサは再度主砲を蹂躙艦メツァカゴスへと向ける。いま、遊撃艦バーレアは背面飛行中だ。もっとも宇宙——星辰界に上下の概念はないのだが。
リサの貫通彗星砲の一撃。彼女はきちんと、敵主砲の螺旋彗星砲を巻き込む形で敵艦を粉砕する。
それとともに、ルバーノからの通信が入る。だが、背景が先ほどと異なっている。広々とした蹂躙艦の艦橋ではなく、何か小さな艦に移乗したようだ。
『くそっ、これで勝ったと思うなよ。俺を殺せなかったことを後悔することだな!』
それを見ても、ラミザは表情ひとつ変えない。
「ルバーノ、味方艦を見捨てて逃亡とは呆れたわ」
『逃げたのではない! やつらは時間稼ぎだ。「哲人委員会」がいる限り、われらの治世は不滅なのだからな!』
それで通信が途絶する。なんという清々しい負け惜しみ。どうやらルバーノは次元跳躍を使って飛んだようだ。
蹂躙艦メツァカゴスは爆散した。多数のクルーが命を落としただろうということは、リサにも想像がつく。ルバーノは、大勢の部下を見捨てて逃げたのだ。
ルバーノの逃亡で、戸惑っているのは敵のほうだった。敵艦は大将に逃げられたのだ。継戦は命じられているかもしれないが、当然、士気に差し障りがある。
ラミザは通信を開き、敵全艦に伝える。
「諸君らの旗艦は轟沈し、ルバーノは逃亡した。これでなおも戦うというのなら本艦は応じよう。しかし、逃げるものは追わない」
そんな通信の傍ら、シズは現状を報告する。
『敵現存勢力、戦闘艦十二、襲撃艦三、攻撃母艦ゼロ。総勢十五艦。開始時より半減しています』
リサとしては、敵艦にはすべて逃げてもらいたいところだった。リーダーが逃げた以上、意味のない戦いだ。しかし、おそらく理不尽なことに、彼らは敵前逃亡は許されないのだろう。
この戦いはもはや決しているというのに。
リサの願いが少しだけ叶ったのか、襲撃艦は三艦全艦が次元跳躍し、戦闘艦は六艦が逃亡した。残ったのは戦闘艦六艦のみだ。
もはや勝ちは見えている。だが、向かってくる戦闘艦には、応じなければならない。
リサは再度、主砲の操作レバーを握りしめた。
++++++++++
敵戦闘艦の残りを掃討するまで、十分と少ししか掛からなかった。
星辰艦の攻撃力・防御力はともに、乗艦している空冥術士の能力で大きく上下する。ここにいるのは空冥術士としての精鋭ばかりだ。リサたちに敵う艦隊など、ほとんどいないだろう。
『敵艦、すべて破壊を確認。残存敵性勢力ありません』
そんなシズの報告を受けて、リサはふうと息を吐く。さすがに緊張していたようだ。座席の背もたれに寄りかかると、肩の力が抜けていく。
だが、そんななかでも、ラミザは警戒心を解かなかった。彼女はシズにさらに命じる。
「シズ、本艦に牽引アンカーがつけられているはず。それを特定のうえ除去して。おそらく、ヴェーラ星辰界域を航行中に付けられたのだと思うわ」
『かしこまりました!』
シズは言われたとおり、遊撃艦バーレアの表面のスキャンを開始する。そして、特定のうえ、艦外の実弾銃で破壊した。
リサは背伸びをしながら、ラミザに言う。
「いいチームワークだったね。この陣容なら、宇宙戦闘でも負ける気がしない」
ラミザは微笑む。
「たしかにそうね。じゃあ、神界でリサがどのような神の二重存在かはっきりしたら、この星辰界のすべてを取りましょうか。星辰同盟も、銀河連合も」
リサは苦笑する。
「ははは、でも、いいよ。わたしはみんなといるだけで楽しいんだから。宇宙を取る必要なんて、ない」
これに対して、意外なことに、アーケモス大帝にまでなったラミザは同意する。彼女はコンソールに置いたパーティーの写真を撫でる。
「ええ、わたしも、あの素朴なパーティーで確認したもの。あなたがいて、仲間がいて……。それがわたしの、一番のぜいたく」
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