第九章 神の国で愛を求める

第九章 神の国で愛を求める(1)空冥術艦隊戦

 リサたちの乗った星辰遊撃艦バーレアは、ルバーノ率いる私設武力行使機関『ゴルマーン』の艦隊に囲まれた状態で戦闘開始となった。


 艦長席に立っていたラミザが座り、ハーネスを締める。


「これより本艦は戦闘機動に移行。ハーネス締め!」


 それを聞いて、リサも慌てて椅子に座り直し、ハーネスを締める。彼女の役割は主砲の制御。この艦の要のひとつだ。


 ラミザの声が艦橋内に響く。


「リサは『遠見』を使い、攻撃準備に入った敵艦から順に撃破すること。フィズナーは副砲を担当し、敵の攻撃を攪乱して。命中補正に関してはシズが補助のこと。ベルディグロウは敵に接近時、接近戦用兵装で攻撃のこと。わたしは主機関を空冥力にて吹かし、機動力を大幅に向上します」


 リサは、ラミザの役割指示は的確だと思った。ただし、ラミザは主機関のブーストと操舵を一手に担うことになる。もうひとり、オペレーターが欲しいところだとは思った。しかし、それを言っても仕方がない。


 ラミザはさらに、シズに命令を出す。


「シズ、敵状況確認」

 

 まだ狼狽している妖精型空冥術支援ユニットのシズは、それでもラミザの質問に答える。


『は、はい。敵旗艦、蹂躙艦メツァカゴス。これにルバーノ氏が乗艦しているようです。ほか、戦闘艦二十、襲撃艦十、攻撃母艦五。総勢三十六艦。戦闘機数はまだ発艦しておらず不明』


「なるほど、攻撃母艦から何機、戦闘機コバエが飛んでくるか考えるのも面倒ね。リサ、まず攻撃母艦五艦を撃沈してちょうだい」


「そんな簡単に言うけど、星辰艦戦闘って初めてで……」


 リサが不満を垂れたが、ラミザはまったく気にしない。


「何を言ってるの。主砲の取扱いなんて、あなたの光弾撃ちとさして変わらないはず。どれが攻撃母艦なのかは、マーカーをシズにもらって」


「……了解」


『了解しました』


 リサとシズがそう答えたと同時に、ラミザは戦闘機動を開始する。強烈な加速度。リサは胃の中のものが振り回されるのを感じたが、腹に力を入れて耐える。


 これでも、この空間は空冥術によって加速度の影響が緩和されているはずなのだ。


 

 まずは三射、立て続けに回避する。さすがに小回りの利く小型艦だ。大型艦なら空冥力を消費しながら防御壁で防ぐところを、そもそも当たらないで敵の懐へ潜り込んでいく。


 近くの敵から撃ちまくるのはフィズナーとシズの仕事だ。彼は両手のレバーで艦の左右の砲を制御できる。操るのは拡散彗星砲。射撃後に標的の手前で拡散するタイプだ。威力はそこそこだが、攪乱に向いている。


 一方、リサが操るのは主砲、貫通彗星砲だ。敵艦の防御壁を貫き、直接ダメージを与えることを目的としている。もちろん、敵からの距離が遠いほどに攻撃力は減衰するが、リサの空冥力をもってすればその心配はない。


 フィズナーが近くの敵を攪乱しているように見せかけているかたわら、リサはまだ遠くにある攻撃母艦から順に撃沈していく。


 ラミザがリサに言う。


「リサ、防御に力を貸して」


「わかった」


 敵旗艦、蹂躙艦メツァカゴスの主砲が遊撃艦バーレアを狙っていた。ラミザはそれをのだ。これは敵に対するちょっとした揺さぶりだ。


 ラミザは空冥力を使って防御系統を一時的に強化する。


 蹂躙艦メツァカゴスの主砲、螺旋彗星砲の一射。リサはそれに向けて、主砲を撃ち返す。ただし、撃ち出したのは貫通彗星砲の射撃そのものではない。『神護じんごの盾』だ。


 遊撃艦バーレアの主砲から展開される『神護の盾』。敵蹂躙艦の強力な主砲すら防ぎきる異質の防御力。敵の攻撃が破片となって散らばった分については、ラミザの空冥力による防御壁で機体を守り切る。


 これにはフィズナーもベルディグロウも驚くほかはななかった。リサの能力は、艦船での戦闘のレベルにまで引き上げられている。


 ラミザが命令を発する。


「敵はあの一撃でこちらを粉砕する予定だったはず。敵の虚を突き、敵旗艦メツァカゴスに接近する! シズ、残存敵戦力の特定急いで」


『は、はい!』


 ラミザの指揮は妖精型空冥術支援ユニットの想定をすら上回っている。


 リサから見て、シズは間違いなく優秀だ。しかし、まだ自分たちと行動を共にしてからの時間が短い。『敵の意表を突きつつも、それが理解できる』ようなオペレーターはやはり必要だと思うのだった。

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