第八章 新造艦ヨツバ

第八章 新造艦ヨツバ(1)鼎談

 アーケモス大陸、オーリア帝国、ジル・デュール星辰軍港。


 惑星アーケモス周辺のヴェーラ星辰軍偵察機群を一掃してからというもの、日本とオーリア帝国との行き来は飛行機で行われるようになった。


 片道一週間以上掛かっていた旅程が、いまや七時間で済んでしまう。


 これはリサにとっても感慨深い。事実、彼女は高校を出たころ、アーケモス大陸と日本の間で船旅をしたことがあるのだから。


 両国間に船便しかない理由が、ヴェーラ星辰軍に空を制圧されていたからだとは、少女のころは夢にも思わなかった。


++++++++++


 ジル・デュール星辰軍港は、魔族に焼かれた大都市ジル・デュールを再活性化するために建設された施設だった。


 オーリア帝国の首都デルンからもほど近く、かつ活用できる土地が広く、利便性が高いがゆえにこの地が選ばれたのだ。


 リサは飛行機を降りようとしたが、タラップの一段が大きく、子供には下りるのが難しいと気づいた。そのため、トモシビを抱きかかえて下りる。


 星辰軍港のほうには、様々な星辰艦が見える。


 まずは銀色の戦艦群。これは銀河連合の宇宙戦艦を模してつくられたものだ。空冥術を必要としない、核融合エネルギー駆動型。空冥力を持たない日本人のための艦だ。


 次に、星辰同盟と同型の空冥術推進を採用した星辰艦群。ただし、ペイントは青になっている。これは、星辰同盟群の艦が赤でペイントされているのに対抗したものだろう。アーケモス統一旗のベースカラーが青なのとも対応している。アーケモス軍のための艦だ。


 一部、日本国旗がペイントされた同型艦もある。これらはおそらく日本の空冥術軍のためのものだろう。


 最後に、黒でペイントされた星辰艦群。これらは魔界ヨルドミスのものだろう。他のものに比べて数が少ないが、おおよそは魔界ヨルドミスから直接飛び立つのだろう。ここにあるのはそのほんの一部というわけだ。



 リサはまず、この星辰軍港に隣接するように建設されたアーケモス星辰軍要塞に招かれている。そこで皇帝クシェルメートと話をするのだ。


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 要塞の最上階の部屋に着くと、兵士が部屋の入口に立っていた。彼に許可を取ってもらうと、扉を開けてもらい、リサはトモシビを連れて入る。


 椅子に座っているのは、皇帝クシェルメートと、魔王アルボラだった。


 リサは魔王アルボラとも面識がある。ラミザが使っていた魔界の至宝、大魔剣『ヴェイルフェリル』を魔界に返却した際に会ったのだ。


 魔界の女王――魔王アルボラ。深紅の長い髪をもつ若い女性だ。だが、魔族の年齢は見た目ではあてにならない。魔界でリサが誘拐されるまで、敵の親玉と見做されていた人物だ。しかし、いまやアーケモス大陸や日本と親しい間柄だ。


「おお、リサ殿よ――いや、リサ様とお呼びしたほうがいいかな? 椅子がひとつ足りなかったか。配慮に欠けていたな」


 皇帝クシェルメートがそう言って立ち上がろうとしたが、リサはそれを手で制止する。


「いえ、呼び方はいつも通りで。あと、椅子は不要です。この子はわたしの膝に載せます」


「いや、それでは疲れるだろう。この余とて、子は皇城に預けてきたのだ。無理をするでない」


 皇帝クシェルメートがそう言って、兵士に椅子の追加を命じる。こうして、トモシビのための椅子が、リサの隣に置かれる。


 リサとトモシビは椅子に座った。もちろん、皇帝クシェルメートも再度座る。部屋の扉が閉じられる。


 魔王アルボラが述べる。


「リサ、ようやくヴェーラ星辰軍から戻ってくれたな。私はこうして、オーリア帝国の皇帝クシェルメートや、日本の支配者・澄河とは懇意にさせてもらっている」


 リサには、澄河御影が日本の支配者とみなされているのは少し奇妙な感じがする。だが、外から見ればそういう風に見えるのだろう。事実、あながち間違っているわけでもない。


 リサは頭を下げる。


「返す返す、魔界大戦の折は失礼しました。わたしは途中で天使の軍勢に誘拐されましたが、それまでは日本の魔界攻略の要だったわけですし……」


「いや、あなたには感謝をしている。変な話だが、あなたが誘拐されたと知れ渡ったときに、日本側もアーケモス側も魔界ヨルドミス側も結託したのだ。あれは歴史の転換点だった」


「それってどういう――?」


「逢川リサ。魔界も、日本も、アーケモスも、あなたのファンだらけだったということだ。ヴェーラ星辰軍に対する抵抗はそのときに始まったと言って過言ではない」


 皇帝クシェルメートが口を挟む。


「ひとつには、わが妹、アーケモス大帝ラミザの存在が大きい。想像もつくだろう。リサ殿が誘拐されたと知ったときのあれの怒りを。余ら三国の合同軍は、ラミザの決定により組織された。それがあれの最後の指示だった」


「それも、話には聞いています……」


「以降、余はアーケモス大帝代理としてこの大陸を治めているわけだ。……いやはや、皇帝の身になってまで、大帝の身分を僭称せんしょうしているような気分を味わうとは。実に、兄に厳しい妹だった」


 そう言って笑う皇帝クシェルメートは、威厳というよりも親しみを感じさせる。表情を緩めている魔王アルボラも同じくだ。


 広大な領土の支配者。数多の人間の支配者。しかしその実は、血の通った人間――魔族も含めて――なのだ。

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