第十章 神聖なる論理矛盾(2)我の他に絶対者なし
第四階位の天使の化けの皮が剥がれたようだ。
もはや交渉にはならない。
相手は神とも天使とも判別のつかない、壊れきった世界のシステムだ。振り回す武器は『破壊剣』。人間ならば一撃で絶命するであろう、絶対無比の神造兵器。
ここでは、ラミザを主な戦闘力として戦い抜くしかない。
「大魔剣『ヴェイルフェリル』!」
ラミザの振るう武器は魔界最強の破壊兵器。魔界の君主の正統な後継者が扱うことを前提としてつくられた、黒い大魔剣だ。
さらに、彼女の背には、魔界の君主たる証――黒い翼が四枚顕現する。
第四階位の天使の『破壊剣』の一撃を、ラミザは大魔剣『ヴェイルフェリル』でいなす。その衝撃の余波は、空冥力の盾で常時防いでいるか、人間離れした身体構造をしていない限り、命を奪いうるものだ。
そんな凶悪な攻撃同士がぶつかり合う。
神殿が崩壊しないのが不思議なほどだ。それから、リサは理解した。この神殿は概念だ。神の宮殿という概念が形をなしているように見えるものだ。
「わが『破壊剣』に、そこまで打ち合うか! そのような強さ、天使でもなければ――」
第四階位の天使の声に苛立ちの色が混じり始める。彼からしても、いまのラミザは人間離れをした――いや、天使の互角以上の存在に見えているということだろう。
「ご明察。わたしが血を引く魔族は、旧きディンスロヴァの天使の末裔。いまでこそ魔族という名で呼ばれるようになったが、天使としての歴史は、貴様よりも長い!」
空冥力を込めた横薙ぎ。『破壊剣』で大魔剣を受け止めたが、第四階位の天使は吹き飛んだ。
その隙を見逃してやるラミザではない。床の上を滑空し、第四階位の天使の吹っ飛んだ先をめがけて攻撃を放つ。
さすがに神殿の概念も直接刺され吹き飛ばされてると保たないらしい。神殿の外壁が崩れ去る。
その攻撃で第四階位の天使を消し去ったかと思った瞬間、ラミザの横手から、第四階位の天使が『破壊剣』で襲いかかる。だが、それは彼女にはお見通しだった。
振り下ろされる『破壊剣』に脚を掛け、横回転して、第四階位の天使の『破壊剣』の上に立つ。そして、『破壊剣』を持つ腕を切り落とす。
よろめきつつ、第四階位の天使はあとずさる。
苦々しげな表情をしているが、まだ降参する気はないようだ。
「貴様ら人間のような半端な種族と違い、われらは腕を落とされた程度で空冥術が使えなくなるわけではない!!」
片腕になった第四階位の天使とラミザは、素手と大魔剣とで打ち合いをする。驚くべきは、魔界最強の破壊兵器を相手に、拳で打ち合える天使の空冥力だろう。
あまりにも桁外れの力と力のぶつかり合いに、リサも、フィズナーも、ベルディグロウも加勢する隙が見つからない。ときどき自分たちの方へ飛んでくる衝撃波を、フィズナーとベルディグロウが空冥力の盾で防ぎ、リサを護っているのが関の山だ。
「ならば!」
不規則的なラミザの蹴り。そんなものは効かないと油断して攻めてくる第四階位の天使。そこへ、いつの間にか回転し、第四階位の天使の首筋を刎ねようとする大魔剣。
腕を落としてもまだ動くのなら首を落とせばいい。
単純な発想だったが、あの大魔剣――魔界最強の破壊兵器が、第四階位の天使の首筋を多少砕いたものの、それだけで止まってしまう。
「な――ッ!」
「……試してみたかったのだ。自分がディンスロヴァになったのかどうか」
第四階位の天使がそう言うと、彼の背にさらに二つの羽根が生え、六枚翼となる。そして、その力も圧倒的に増す。
第四階位の天使には失われた腕が生え、その手には新たな『破壊剣』が握られる。ラミザが負わせた損害すべてが回復している。
「貴様――ッ!」
「ああ、どうやらわれは、ディンスロヴァであったらしい。見たか、旧き天使のなり損ないよ! この絶対者を相手に戦えるものか!」
第四階位の天使の『破壊剣』の一撃で、大魔剣で防御したはずのラミザが弾き飛ばされる。なんとか踏ん張るが、そうしないとどこまで飛ばされるかわかったものではない。
第四階位の天使とラミザは互いに剣で打ち合う。第四階位の天使はディンスロヴァとなったというのに、ラミザは苦戦しているが、応戦できている。
「面白い!」
「面白いとはなんだ!」
ラミザは大魔剣に空冥力をため込むと、強力な一撃を第四階位の天使に見舞った。あまりに想定外の威力だったのだろう、第四階位の天使は両手で『破壊剣』を押さえてなんとか防ぎきった様子だ。
「前ディンスロヴァの力を
「なに!?」
ラミザの言葉を聞いたリサは動き出していた。彼女は跪き、祈るような体勢を取る。
もし、本当にわたしが神のような力を行使できるのなら。この場をおいて他はない。
リサ第四の固有能力『神の選択』。
「いま、このとき、この場所を以ちて、天使ラミザをわが選びし者として神託する。わが寵愛を受けし、大天使として、神の敵を討つがよい!」
リサの声が神殿じゅうに響き渡る。それをもって、ラミザの紅玉のような両眼が輝きを増す。
ラミザの大魔剣が一振りごとに第四階位の天使の『破壊剣』を粉々に砕く。その度に『破壊剣』は復活するが、どちらが優勢かは一目瞭然だ。
その様子を見ていた、フィズナーもベルディグロウも呆気にとられる。
ベルディグロウが衝撃を口にする。
「私は、リサこそ『選ばれし者』であると思っていたこともあるが、まさか、『選ぶ側』だったとは……」
リサは祈りの体勢から立ち上がり、フィズナーとベルディグロウに言う。
「わたしたちも行くよ」
「行くって、あのとんでもない攻撃の打ち合いにか!?」
「補助はわたしができるとわかった。さすがに、天使でないふたりを『神の選択』で強化するほど、わたしは強くないけど。時間稼ぎならできるから」
「時間稼ぎ?」
「うん。さっき、ラミザにヒントをもらったから」
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