第三章 選民の天上
第三章 選民の天上(1)ヴェーラ人らしく
ヴェーラという惑星世界が、その土地だけで人口を維持できなくなったのは千年以上前のことだ。
惑星世界の表面積というのはおのずと限度がある。そして、表面積当たりの人口支持力というのは、向上はできても無限にはならない。
そういった問題を解決する方法がふたつ提示された。ひとつは他の惑星世界への侵略だ。そして、征服地の資源を奪い取って帰ってくる。
もうひとつは、ヴェーラ惑星世界そのものを積層化することだ。まず、二層になれば同じ惑星がふたつあるのと同じだとされた。
現在では、ヴェーラ惑星世界の地表に根差してつくられた積層都市は百数十にも及ぶ。これは、純粋に、かつてのヴェーラ惑星世界の地表面積が百数十倍になったことと等しい。
しかし、ヴェーラ惑星世界の積層都市は人口爆発により制御が困難になった。それゆえ、富裕層や能力に恵まれた者たちは、さらに上層に、空に浮かぶ層を建設した。
これが、『天上』と呼ばれる層であり、太い透明なチューブ五層から成っている。もちろん、このチューブと呼ばれるものも広大であり、そのなかに高層建築などの都市建造物が存在する。
この『天上』五層が建設されたことで、
現在、ヴェーラ惑星世界の総人口は約七千億人。そのうち、『天上』に住むのは、全人口の約〇・二五パーセントでしかない。
以上が、トランスポーターに乗りながら、リーザがラミザから説明された内容だ。リーザにとってはすべてが新しい情報であり、相当に面食らった。だが、透明なトランスポーターから見える星々の景色は美しく、それには魅了された。
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『天上』の街に着いて、ラミザがまずリーザを連れていったのは服屋だった。身体の汚れは昨晩のホテルのシャワーで落としたものの、服がない問題はまだ解決できていない。
ラミザは、いまだにリーザが外套を素肌の上から直に着たままなのを、なんとかしなければならないと思っていた。
入店するも、客は何人かいたが、店員はひとりもいない。服の選択から購入まで、機械の補助で行えるのは簡単でいい。人間はトラブル発生時に駆けつける警備員だけだから、問題を起こさなければいいのだ。
ラミザは、リーザを鏡の前に立たせ、操作盤に星芒具を当てて、着せる服を選んでいく。
「これは、あのときの服に似た青。……こっちの黒はちょっと、いまはやめておこうかしら」
「あの……」
リーザは戸惑う。実際には外套を着ているだけの自分が、鏡の中でどんどん着せ替えられていくのだ。こんなものは見たことがない。
「あら、この組み合わせは……。ヴェーラ『天上』で調達可能なものだけで、雰囲気は出せるのね。そうするとメガネも……。いやそれはやりすぎか」
「あの……」
「ヴェーラの『天上』で浮かない組み合わせにしたいわね。目立つことは避けたいのだし……」
ブツブツ言いながら、ラミザが操作盤をコツコツ叩くと、首元からくるぶしまでのワンピースに切り替わった。腰回りはコルセットのようなベルトで締めてある。スカートには大きくスリットが入っているが、下がタイトなズボンなので問題はない。両肩・両腕は露わになっている。
「すごい。貴婦人のかたみたいです」
リーザがそう言うと、ラミザは笑いながら、決定作業を行う。
「貴婦人じゃないわよ。このヴェーラの『天上』の衣服に合わせただけ。
「すごいです!」
「ほら、そこから服が出てくるから、向こうの着替え室の中で着替えて来て」
ラミザの言うとおり、リーザの身体に合わせた服と靴が機械から出てくる。それを見て、リーザはむしろ不安を覚える。
「いいんですか? わたし、お金がないです」
「お金の心配ならいらないわ。いろんな人から、あなたのためのお金を預かっているから」
「えっと、それはどういう……?」
「心配しなくて大丈夫ということだけ、わかってくれたらいいから」
「あ、はい。わかります」
リーザはそう言うと、機械から出てきた服を受け取り、着替え室の中に入る。
数分後、リーザは着替え室から出た。彼女は、機械で調整したのと同じコーディネイトになっていた。
それを見て、ラミザは両手を合わせて嬉しそうにする。
「素敵ね。あなたはこういう服も似合うのね」
「あ、ありがとうございます。見た目のしっかりした感じに比べて、ずいぶん軽くて動きやすいんですね。不思議です……」
リーザは自分が着ている服に驚く。着替え室から出てきて軽く跳ねてみるが、服が邪魔をする感覚はない。
その間に、ラミザはリーザが腕に抱えていた外套を回収する。リーザは慌てる。
「あの、外套はお持ちします」
「いいの。これはわたしが持ち込んだものだから」
++++++++++
衣服を新たにしたリーザとラミザは、『天上』の街を歩く。
ここも人々が忙しそうに移動しているが、『下界』のような混沌とはまったく違っていた。各人が何か目的を持って動いているように見える。
ふたりは、スポーツのコートの前を通った。ラミザはそれについて気にも留めなかったが、リーザのほうがそれに見入っていた。
コートの中ではふたりのプレイヤーがボールの打ち合いをしている。ルールはわからないが、真剣そうだし、なにより表情が明るく楽しそうだ。
リーザが足を止めて試合を眺めていることに、ラミザは気づく。
「もしかして、やってみたいの? リーザ」
「え? わたしですか? いえ、あの、見たことがなかったものなので」
「面白そうに見える?」
「ええと、嬉しそうには見えます」
「じゃあ、やってみましょう。こっちへ来て」
ラミザはリーザの手を引く。そして、球技コートの事務所のほうへと、ずんずん入っていく。
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