第一章 役に立つは嬉しい(2)対話 ②
しかし、星芒具に触れた瞬間、リーザはむせかえり、そのまま嘔吐する。すさまじく背中を上下させ、ただでさえ少ない胃の中のものをすべて吐き出す。
「すみません……。はい、落ち着きました」
「――」
「はい? わたしが? それを使って抵抗することを怖れた人がいる? プロテクト……?」
「――」
「わたし、
「――」
「使ったことないです。星芒具も、空冥術も」
「――」
「あの、また星芒具、持ったほうがいいですか?」
「――」
「そうですか。あの、床を汚してしまったので、拭きますね」
「――」
「え、機械がやってくれる? それは、機械に申し訳が……」
「――」
「わかります。機械にお任せします」
「――」
「え? これは床じゃない? 地面? 外?」
「――」
「外ってなんです? 外って、星辰の海のことですか?」
「――」
「ここが、外? でも、わたしの控え室と変わらないです」
「――」
「はい。あるときはあります。生ゴミとか。食べかけとか」
「――」
「みんなお皿をもってないので」
「――」
そこへ、地面を掃除するための機械が通りかかる。
「本当に機械が来た。すごいですね。外は部屋より綺麗です」
「――」
「次のお仕事の場所はどこですか? すぐにでも働きます」
「――」
「お客さんたくさん喜んで、ラミザさんもたくさん喜ぶと思います」
「――」
「違う? もしかして、ラミザさん専属ですか?」
「――」
「専属じゃない。お店じゃない。わからないです」
「――」
「わかりました。勝手に浮かれてごめんなさいです」
「――」
「気に入っていただいて、単品買いしていただくのは、嬉しいことですので。でも、そうじゃなかったんですね」
「――」
「でも、専属でもお店でもないと……」
「――」
「わたしは不幸を知りません。このお仕事は、人を楽しくできるので」
「――」
「やりがい、というんでしたっけ」
「――」
「わたしは売れるものを売る。買った人、お店の人、みんな嬉しい。ね?」
「――」
「人に尽くしたいんです。それは悪いことですか?」
「――」
「え? わたしが……?」
「――」
「人がわたしにやさしく……?」
「――」
「みなさん、わたしにごはんをくださいますよ」
「――」
「わかりません」
「――」
「想像できないです」
「――」
「わたしが、尽くされる。わからないです」
「――」
「寄り添ってもらう? わからないです」
「――」
「いいえ、わたしにそんな権利ないです」
「――」
「わたしは人に尽くします。それだけなんです。私はそれで満足なので」
「――」
「いえ、いや、でも、お客様に気を使っていただくなんて、ありえないですし」
「――」
「もちろん、持ち主さまもです。ありえないです」
「――」
「わたしは人を嬉しくできるだけで充分なんです」
「――」
「はい、そうです。ラミザさんのことは大切にすると思います。ラミザさんは、わたしではないので」
「――」
「でも、そのようにはわたしにはできません。それはわたしなので」
「――」
ラミザは目頭を押さえ、目を潤ませる。だが、リーザには、なぜラミザがそんなにも悲しそうなのか、まったく見当も付かなかった。
「あの、どうして泣いているんです?」
「――」
「お慰めしましょうか? いままでとってもたくさんしてきたので、お役に立つかなと」
「――」
ラミザは立ち上がる。
「あ、待ってください。怒らせた? ですか? でしたら、なんでも命じてください」
「――」
「あの、置いていかないでください。でしたらお仕置きを。捨てて行かないでください!」
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