忌まわしき混合種


「ギャアァァァァァァァァ」

イレイナがもう一度前を向くとそこには、下半身は蜘蛛、上半身はバッタ、

顔はプラナリアに似た生物が立っていた。

私は目の前の状況が掴めず、怪物の向こうからガルダとルナの声を聞くまでは時が止まったようだった。

「避けろ!」

声を聞いて反射的に後ろへ飛び退く。

数秒の揺れの後、私が居た場所に自身の胴体がすっぽりハマるだろう穴が出来ていた。

「混合種キメラだ!」

「きめら? とりあえず敵なんだね!」

ガルダに返事を手早く済ませ矢を番える。

見たところ虫が何体か混ざっているようだ。

なら―――

「ファイアーアロー!」

火が効くはず――!!


「イレイナさんダメ!」

放つ瞬間、ルナの声を聞くと同時に鈍い音が耳に入ってきた。

放たれた矢が混合種の剛体を貫く事が出来ず、私は為す術もなく吹き飛ばされた。



耳鳴りがする。ガルダとルナが叫んでいるのに頭の中で鳴り響く甲高い音が煩わしい。

ふと上を見た。私を吹き飛ばした化け物と目を合わせる。

――――ああ、そうか。そうすれば良かったんだ。

素早く身を翻し、矢を放つ。ちょうど私を踏み潰そうと伸ばしてきた脚に当たる。

矢は―――

―――脚を抉った。

何が起こったのか敵は分からなかったのだろう。右後ろの脚部が無いことに気づかず体制を取り戻そうとしている。

だが、流石に胴体部分に"コレ"は通じないだろう。

何より魔力がもたない。

持久戦はまずい、故に早期に勝負を決める―――!


瓦礫を足場にして空へ飛ぶ。狙うは一点、敵の弱点であろう部分。

もう一度、目が合った。だがさっきとは違う。

今は、私が見下ろしている。

「ファイアーアロー」

矢を穿つ。炎は瞳を貫き脳漿を焼き尽くした。


「いだっ!」

受身を上手く取れず背中を強打した。

痛みで呼吸が出来ずその場で飛び跳ねる。

数秒の後なんとか呼吸ができるようになりようやく辺りを見回した。

焼け焦げた巨大な化け物、動いていたのが憎らしい抉り取られた脚部が落ちている。

―――危なかった、一瞬判断が遅れたら私はこいつの血肉になっていた。

振り返りルナのもとへと歩み始める。

ルナが青ざめている。

ガルダが身構えた瞬間、私は魔力を放った。


脚部から生えてきた、否、再生し始めた混合種が再度燃え始める。

頭部がプラナリアなので怪しいとは思っていたがここまで再生が早いとは思わなかった。

脚部を抉った矢を残しておいて良かったと安堵し、二人のもとへ向かった。

「イレイナさん!」

涙で目を一杯にした獣人が私の元へ飛びついてくる。その勢いに私の身体抵抗する事も出来ずに地面に倒れる。

涙と鼻水で服はぐちゃぐちゃだ。

「イレイナさん!イレイナさん!」

まだルナは落ち着かないようだ。私は束の間の平穏に感謝しつつ上の少女を抱き締めてゆっくりと微睡みに抵抗する事もなく目を閉じる。

―――パチン

ん?...この音、前にも聞いた事がある...どこだったかな?

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