束の間の休息
外に出て弓の調子を見る。
あれから思いの外時間をとられた。
二人共が方向音痴な事もあり、万全の体制で出ようという話だったのだが…。
居心地が良かったのでつい長く居着いてしまった。
―――まあガルダは相変わらず短気でひやひやさせられたが。
的を貫いた矢を見てガルダの強さを再度実感させられる。
私の得物は能力の付与だ。魔力が続く限り、また魔力が許す限りの能力を対象に移すことが出来る。
弓に魔力の火を移すことが大概だが、やろうと思えば毒や呪いの類だって出来るだろう。
だがアレに毒や呪いが効くだろうか?
「無理だろうなあ…」
「何がだ?」
「はうあっ!??」
……飛び出た心臓を押し戻して深呼吸を始める。ガルダは目を丸くしてこちらを見ていたが、家族と朝にしていた体操を始めると再度確認してきた。
「何が無理なんだ?」
「ええっと…。」
さて、なんと答えるのが正解なのだろう。
貴方を倒す算段をしていました、などと口走れば文字通り首が飛ぶことになる。
「いやあ………ダイエット?」
「まああんだけ急いでガツガツ食うような女なら難しいよな」
さらりと吐かれた暴言を聞いて、やはり此奴は処すべきだと腹の中で何度も繰り返す。あれは1日なんにも食べてなかったからああなっただけで…
「で、何の用?」
頬を膨らますのは似合ってないと思い、努めて鉄の仮面を被り返事をした。
声色は自分で思ったよりも低かった。
「ああ、ルナが呼んでるぞ」
私は弓を背負ってその場を後にした。
私はルナの元へ歩みを進めている最中、何の用だろうかと思いを巡らせた。あの時勝手に食べた甘味の事かな、それとも不注意で壊してしまった食器のことかな。怒られるの嫌だなあ…
ん?いや、待て待て。私ってこんな人間だったっけ?性格が変化というかキャラが別物になってるような。もっとクールに生きていたような。
何か、何かがおかしい
――パチン
刹那、フィンガースナップの音が鳴り響く。
あれ?なんだったっけ?そうだ!ルナちゃんが呼んでるんだった!早く行かなきゃ!
あたしはパタパタと目的地に向かって走っていった。
―――――その様子を映している鏡、フィンガースナップを鳴らした者が妖艶に微笑んでいた。
「あぁ、愛しのイレイナ...貴女はそんなことを考えなくていい、貴女は僕にいろいろな姿を見せてくれればいいんだ。」
パチン
もう一度フィンガースナップの音を鳴り響かせると、鏡は消えてしまった。
「そろそろ御迎えする時期だね。待っててイレイナ、すぐに行くからね。」
何やら準備をしてから、其の者はその場を後にするのであった...
「ガルダも旅の仲間に誘いたい⁉︎」
私は少し驚いた。ルナが私と会う前にガルダと知り合っていたのに、ガルダと旅をしなかったのには、何か理由があるに違いないと、納得していた。今それを言うのは何か事情があるかもしれない...覚悟して聞かないと。
「ほ、ほら!数の暴力って言葉がありますし、仲間が増えることは良いことじゃないですか!そ、それうに、私たちだけでは不安ですし...」
う~ん、ルナの言うことは正しい。仲間が増えることは、安全にも繋がる。しかし、顔を真っ赤にして、ここまで理由付けするのは何故だろう?
「さあ、ご飯を食べましょう」
そう言うとルナは走っていった。
私はその姿を眺めながら、今まで起きた出来事をふっと思い出すのであった。
地下での退屈な日常から地上に出て、すぐに非日常になり不思議と惹き付けられる女の子とも出会った。
これからはもっとたくさんの出会いや出来事があるだろう。
期待と感嘆に浸り、ルナのもとに向かおうとすると空から雷のような光がイレイナの前に落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます