チキマヨ戦国バブル時代
使った単語:町奉行 異常気象 シーチキンマヨ 着の身着のまま 国際連合
朝のニュース番組というやつは、だいたい1時間おきぐらいに同じ内容を報道する。
そんな事実を知ったのは、家族よりもかなり早く家を出るようになってからだった。
高校に入学して以来、部活の朝練のために家族がまだ寝ている時間に1人で起きて家を出るのが日常だった。
リビングのテーブルで一人ごはんを食べる。いつもはこの時間は起きぬけで意識がぼーっとしているからテレビの内容は頭に入ってこない。
でも今日は違った。ニュースの内容が僕に直接関係する内容だったからだ。
「次のニュースです。本日から各地のコンビニメーカーやスーパー等の小売業界ではシーチキンなどのマグロを使った加工物の取り扱いを制限することを発表する企業が全国で相次いでいます。これは近年の異常気象によるマグロの漁獲量の低下により海洋資源の国際連合から発表されたマグロの漁獲禁止の影響を受けたもので……」
なんだって!
僕はシーチキンマヨのコンビニのおにぎりが大好物なのだ。それがなくなってしまうのなんて、もうこれは異常気象というより天変地異だ!
だが落ち着け、まだ全然朝も早い、きっとチキマヨのおにぎりは残っているだろう。
そうは思ったけどやっぱり不安な気持ちが抑えきれず、僕は着の身着のままの格好で外に飛び出した。
自転車にまたがって朝靄の中を爆走し、一番近いローンソを目指した。
「らっしゃーせー」
自動ドアが開くと徹夜明けで目が血走ったコンビニ店員のあんちゃんのヤケクソ気味な声をスルーしておにぎり2つを棚から奪い取った。僕はいつもシーチキンマヨと鮭を買う。いつも必ずこの2つなのだ。僕の体の50%はおにぎりでできている。
僕が取ったおにぎりは、最後のツナマヨ味だった。
「おお神よ! 我にツナマヨを与えたもう!」
僕はつい嬉しくなって神に感謝した。着の身着のままのパジャマ姿だったけど。
この時間はいつも朝のラッシュに備えてかギチギチになるまで陳列棚に入っているのに、もう売り切れとは……異常気象おそるべし。
もしもう少し遅かったら……。想像のあまりの恐ろしさに思わず身震いしてしまった。
僕がレジに向かったすぐ後、ドカタのにいちゃんが店内に入ってきた。そしてたった今商品が無くなったおにぎりの陳列棚を見て、それから僕の手に持っているおにぎりを見てびっくりしたような悔しそうな顔をしていた。
僕は内心「残念だったな、チキマヨ愛の勝利だ、ははは」と勝ち誇っていた。
パジャマ姿だったけど。
お昼休み、いつものように部活仲間で集まって教室でお昼を食べた。
「おい、お前それ、ローンソのチキマヨおにぎりじゃねぇか」
友達にそう話しかけられた僕は得意げだった。
「おうよ、パジャマ姿でダッシュしたら最後の1個が残ってたのよ」
「さすがだぜ。でもそれってシーチキンとマヨネーズ買ってきて家で作ったらいいんじゃないのか?」
「ちっちっち、分かってないぜ。お前は全然全くこれっぽっちも分かってないぜ。チキマヨおにぎりはコンビニのものが唯一にして無二なのよ。自分で作ったりスーパーで売ってるようなものは所詮は偽物よ」
そう僕が力説すると、友達は「まぁ確かに微妙に味は違うよな」と、頷いた。
「おい見ろよ、今朝販売されたチキマヨおにぎり、500円でメリカルに売られてるぜ、しかも落札されてるわ」
別の友達が僕にスマホの画面を見せてくれる。オークションアプリでは既に実売の5倍近い値段で取引され始めているようだった。
「やっぱりな、コンビニのチキマヨには100円以上の価値はあるとは以前から思っていたんだ。俺は明日も早起きしてチキマヨおにぎりをゲットしてくるぜ!」
僕は友達の前でそう意気込んだ。
しかし現実は過酷だった。
うちの近くのローンソの仕出しは午前5時ごろに行われる。
いくら早起きするからといって、4時台起きは正直しんどい。
早起きしても手に入らないこともあった。ああ、チキマヨよ、どうしてこんなことに。
全国各地のコンビニではチキマヨを巡って朝から壮絶な争いが繰り広げられることになり、各地のコンビニはこの争いに対応を迫られることになったのだった。
そんな中、ある所ではジャンケンで、ある所ではくじ引きで、そしてまたある所では将棋大会で勝ち抜けた人が、チキマヨをゲットできるなど、コンビニ店舗による工夫が凝らされていった。
数ヶ月後、全国6万を超えるコンビニがそれぞれ知恵を絞り、チキマヨおにぎりをかけた大会を開き、そしてあわよくば客引きによる経済効果を狙っていた。
俳句大会、eスポーツ大会、クイズ大会、大喜利に大食い大会、挙げ句の果てには名奉行選手権まで、ありとあらゆる手法でチキマヨをかけた熱い戦いが繰り広げられることになり、チキマヨのオークションサイトでの取り引き相場は5000円にまでのぼった。
後にこの時代はチキマヨ戦国バブル時代と呼ばれることになったのである。
めでたしめでたし
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