14- 4

 強すぎる。チート持ちがこれほどまでに強敵とは、敵に回すと厄介すぎる。 

 だが、絶望はこれで終わらない。

 更にポータルが開く。

 しかも、一つだけじゃない。同時に四つも。

 四方にバリバリと空間を裂く音と共にポータルが開いていく。このポータルから見える景色。これも見覚えがある。ゴールデンキングダム。アレクが転生した異世界。

「まさか、アレクが再び凱旋するのか・・・」

 出現した残りの三つのポータルからもそれぞれ転移者が現れる。そこで、気がつく。こいつら全員異世界転移者だ。アレクの配信で紹介された転移者達だ。

 カードローナ転移者、拳骨牧師、豪武。

 ホワイトライン召還者、完璧の矢田部次郎。

 ジャクソンホール転生者、伝説の小菅。

 こいつらは皆アレクの配信で紹介された異世界転移の成功者達。

 確か、この転移者達は一同に会し、能力の力比べをした配信も行っていた。あの配信では物理や魔法の攻撃力や防御力などを順位付けしていたが、最弱は田中だった。

「ここまでか・・・」

もはやこの状況で、転移者達を相手にアクセリに勝ち目は無い。巷では、アレクと共に配信した転移者達を異世界同盟などともて囃していたが、最弱の田中すら倒せない今の俺達に何ができる。

 項垂れる俺に、アレクは話しかけてくる。

「はじめまして、ゴールデンキングダム転生者のアレクです。あなたですか、ポータルを閉じていた不届きものは」

 俺は目を合わす事もできず、言葉を返す事もできずにいた。

「他愛も無い。こんな非力な奴らが俺達の邪魔をしていたとは、草も生えまsんよ」

 果てしない絶望は倦怠と無気力を俺にもたらした。アレクの言葉に反応できない

「異世界転移はね、僕らが考えた救済措置なんですよ。魔族が支配する、この腐った世界から人間を救済するためのね」

 魔族?救済?なんの事だ。

「ほんとに困りましたよ。五年もがんばってポータル開かせたり、召還させたりと色んな異世界に働きかけて実現させた救済プランを、異世界対策室に全部邪魔されてきましたから。そして。ここに来て、あなたの登場だ」

 アレクは俺の襟を掴み上げる。

「本当にあなたは邪魔だ。救済の障害だ。殺生は好みませんが、あなたは例外だ。ここで始末します」

 そう言うと、アレクは剣を抜く。

 だが、俺の体は一向に反応しない。このままでは、まずい。誰か・・・。

「そこまでだ!」

 特大の雷が目の前を打ち抜く。

 舞い上がる塵から現れたのは、エステルだった。

「遅れてすまない、室田」

「エステル、みんなが・・・みんなが・・・」

 既に俺は精神的にかなりのダメージを負い、まともな会話ができなくなっていた。

「安心しろ。みなは私が助ける。無論、お前もだ」

 そう言うとエステルは杖を翳す。みる間に宙に雨雲が形成され降り注ぐ。その雨は傷ついた体に降り注ぐと、たちどころに傷を消していった。

「くっ・・・エステルか。遅かったじゃないか」

 意識を失っていた銀が目を覚ました。他の皆も、傷が回復し、意識を回復しつつある。

「ぐんちゃん・・・」

 俺の腕の中で倒れていた巴ちゃんも、なんとか一命を取り留めたようだ。

「良かった・・・。本当によかった」

 癒しの雨とともに、涙が頬を伝う。

「室田、選べ」

 エステルは静かに語りかける。

「正直、私一人ではこれだけの数のチート持ちを相手にするのは不可能だ。お前の力を貸してくれ」

 俺の・・・力?

「言っただろう?お前の魂には拒絶の性質がある。いまこそ、魂の力を解き放て。拒絶の力を」

 魂を、解き放つ。

 だが、突然そんなこと言われても、一体どうやったらいいんだ。

「チート能力の無い異世界人風情が調子に乗るな!」

 アレク達が一斉にエステルの懐へ飛び込む。だが、閃光とともに雷撃がアレク達を打ち抜いた。

 効いている。

 アレク達にエステルの攻撃が通じている。

「このエルフめ!」

 アレクは再び斬り掛かり、剣戟の音が響く。

「なにぃ?!」

 エステルはアレクの斬撃を防いでいた。一体どこに剣を持っていたのか。

「仕込み杖か。やるな、エルフの女」

 エステルの杖は仕込み杖だったらしい。だが、あの剣、よく見ると日本刀ではないか。

「エステルが刀を抜くなんて久しぶりだな」

 ようやく銀は起き上がってきた。

「あぁ。我がラークスの英雄、ヨシオ仕込みの剣術だ。とくと味わうがよい」

 刹那、エステルは転移者達に斬り掛かる。

 その戦いぶりはまるで神話の世界だ。エステルは、魔法を詠唱しながら、斬撃を加えている。五人のチート持ちの転移者達を一度に相手にしながら。

 だが、多勢に無勢。エステルが押されはじめている。これは、まずい。

「チッ、これでもくらえ!」

アレクの掌に光の玉が形成される。

「ッ・・・、いかん!」

凄まじい爆音と光。エステルが弾き飛ばされる。

「エステル」

「大丈夫だ。まだ、やれる。だが、このままでは少々キツいな・・・」

 エステルももはや気力でなんとか持ち堪えているがこれ以上の戦闘は危険だ。

「全く、大したエルフだ。異世界の存在のくせに、ここまでやるとはな」

 エステルは敵に包囲された。今攻撃されればエステル諸共やられてしまう。なんとかしなければ。

「おい、アレク。一つ効きたい事がある」

「何だ、冥土の土産の質問か?」

 転移者達が嗤う。もはや自分たちの勝利を疑わず、悦に入っているようだ。そんなやつらを横目に、俺はなんとか時間稼ぎを試みる。

「さっき、俺が君達の邪魔をしていると言ったな。あれはどういう意味だ」

「そのままの意味だ。ポータルの開放や、異世界召還は、俺が積極的に他の異世界に干渉し、実行させた救済処置だ」

「救済処置、だと」

「お前にだってわかるだろ。この腐った世界の有様を。この世界は手遅れだ、何もかもが手遅れだ、人類に残されたのは緩やかな死が待つばかりだ。それだけならまだいい。この世界はすでに魔族に支配されている。この強固な支配から逃れるには、もうこの世界から脱出させるしか方法が無い」

 魔族による支配、何を言っているんだ、コイツらは。

「待て、お前達。何を言っているんだ。この中核世界には魔法も存在しなければ、人間以外にも種族はいないはずだろ。それとも・・・違うのか」

「・・・あぁ、そうだ。異世界だけがファンタジーの世界じゃないのさ。どころか、この世界こそが魔法や奇跡が存在するファンタジー世界そのもだったんだ。数千年前、この世界にも魔族も魔法も存在した。魔族はとても強大で凶悪で、人間を家畜の様に支配していた。勿論、人間もその支配に抵抗したが、無念にも魔族との戦いに破れ、魔法を奪われた。だが、効率的な支配を重んじた魔族は魔法を奪う変わりに科学文明を人類に授け、表向きは人類が世界を支配している様に演じつつ、実際は歴史から魔法と魔族の存在を隠匿し、影から支配することを選んだ。その結果が今のこの世界だ」

 愕然とする。これは事実なのか?俺を陥れる嘘ではないのか。

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