14-3

 俺が考えを巡らしている間にも、続々とアクセリの仲間が集結していく。銀舎利、クロ、アーロンにセシリア、それに巴ちゃんも。


 形勢は確実にこちらが優勢なはず。だが、田中は動揺もせず、ニヤニヤとしたままこちらを眺めている。


「勝手に集まってくるなんて狩るのに丁度いいわ。それに、こんなチンケな力で異世界と渡り合おうなんて、ほんと目出度い家畜達だもの。わざわざみんなを待たなくても、私一人で片がつきそうね」


 田中は再び杖を掲げる。その瞬間、市村が発砲し田中を牽制する。


「銀、小林!援護は任せて!奴の首を獲れ!」


「応!」


 市村は絶えず小銃で田中を牽制する。田中には防御結界で弾の一発も当たら防御結界に弾かれているが、隙を突き銀と小林君が接近する。


 弾の装填で僅かに産まれる攻撃の隙も、セシリアとアーロンが魔法を放ち、絶えず攻撃をし続け、田中を牽制する。


 間断のない高度な連携攻撃だが、田中はものともせず杖を掲げ、再び魔法を放つ。


「良し、このまま攻撃を加え続けろ!いけるぞ!」


 市村の声がこだまする。


 田中の周りに展開していた薄く白い防御結界にひびが入る。だが、喜びも束の間。田中の不気味な嘲笑で、俺達は攻撃が全く効いていないことを悟った。


「残念。実力が違いすぎると、どんな攻撃も意味ないのよね」


 田中が指を弾きパチンと音が響く。音と共に白い壁はガラスの破片のように鋭く砕け、凄まじい勢いで放射状に散り、小林と銀を貫いた。


「がぁ・・・!」


 田中に直接攻撃を加えようと最接近していた銀と小林が倒れ込む。


「ぐんちゃん、何・・・これ・・・」


 巴ちゃんは真っ赤な自分の手を見ている。


 みるみるお腹が血で染まっていく。すかさず、傷を確認するが、どうやら先ほどの破片が腹部を貫通したらしい。これはまずい。


「巴ちゃん・・・巴ちゃん!」


 咄嗟に体を支えるが、もう巴ちゃんには自力で立つ力がない。すぐに止血をするが、一向に血が止まる気配がない。


「室田さん、巴さんを安全な場所まで移動させて下さい!アーロンは治癒魔法を巴さんに!ここは私が食い止めます!」


 セシリアは魔法攻撃をするべく呪文を唱える。


「醜い声は聞きたくなくてよ」


 田中は杖をセシリアに向ける。すると、セシリアは喉元を押さえ、苦しそうな表情をする。


「がはぁ!」


 セシリアは喉を押さえながら倒れ込む。


 首の周囲に魔法陣が白い光を放ちながら宙に浮き出ている。


「サイレンス。これでしばらくあんたは魔法を唱えらない。ついでに息もできなくしてあげたわ。豚の声なんて誰も聞きたくないもの」


「セシリア、大丈夫か!」


 アーロンはすぐに魔法を解除しようとするが、バチッっと手が弾き返された。


「あらぁ、あなた魔族なのね。それは残念、私はこれでも聖なる魔女ってことになってるの。魔族にはその魔法陣に触れる事すらできないわよ」


 アーロンは焼け焦げた手をしばし眺め、溜息をつく。


「・・・致し方ないですね。ここは私にお任せを。私はこの女を到底許す事はできない」


 アーロンの体がミシミシと音を立て膨張していく。


「貴様は私が滅ぼそう。私の命に代えてでも」


 アーロンは天高く吠え、黒い風が吹きすさび、アーロンを包んでいく。すると、みるみるアーロンの体は人型から獣人へと姿を変え、漆黒の黒羊の姿を表した。


「あらぁ、素敵ね」


「いざ・・・」


 アーロンは田中めがけ踏み込み、拳を握りしめ渾身の一撃を振るう。


 だが、そっと手を翳した田中にあっさりと拳がいなされた。さっきの防御結界だ。盾のように使うだけではなく、柔軟に使い方を変えられるようだ。


「おのれぇ!」


 アーロンは力任せに田中を殴りつける。何発も何発も。その打撃は目にも止まらぬ速さだ。しかし、そのいずれも田中には届かない。全てが躱され、いなされ、防がれている。


「少しは期待したのに、退屈だわ」


 田中は軽く手を払う。それと同時にアーロンは瓦礫の山へとはじき飛ばされた。

「せっかくだから、魔族にふさわしい最期を・・・。そうね、串刺しなんてどうかしら」


 田中は片手を天に突き上げると、光の束を生み出していく。


 光の束は螺旋を描き、さらに光の束を巻き込みながら次第に大きくなっていく。


「さぁ、これでも喰らいなさい!」


 光の螺旋がアーロンをめがけ翔び、体を穿つ。


「ガアアアァァァァ!」


 アーロンはなんとか光の螺旋がこれ以上体に食い込まないように必死に光の螺旋を押さえている。だが、螺旋の回転の摩擦で手はボロボロに千切れ、遂にアーロンの体に食い込んでいき、貫通した。


 獣の断末魔がオスロに響く。


「あら、やっぱり魔族は家畜のような悲鳴がお似合いね。素敵な断末魔だったと思うわよ」


 悪魔のような田中の甲高い笑い声がオスロに響く。

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