14-1:オスロ防衛戦
停電で真っ暗になったが、それと同時に非常灯がつく。
食堂の窓からオスロを見渡すが、停電はオスロ全体に広まっているらしい。
「何かあったのかな。電気系統のトラブルとか」
俺はこの時、何の危機感も感じず、ただぼんやりと真っ暗なんオスロを眺めるだけだったが、小林君は違っていた。
「室さん、急いで出動の準備を。これは敵襲です。急ぎますよ」
轟音と共に、赤い炎がオスロの中心部から燃え上がっている。
「爆発?事故か?」
「室さん、急ぎますよ」
半ば無理矢理小林君に引っ張られながら、装備を整えるべくアクセリ本部に向かう。
寮から出ると、さらに爆炎が巻き起こり、断続的に爆発音が聞こえる。
「急ぎますよ!これは事故なんかじゃない、攻撃だ」
「攻撃って、一体誰が」
「現時点では不明です。とにかく今は敵を迎撃します」
すでにアクセリ本部からは待機していた部隊が続々と現場に駆けつけていく。俺達もすぐに本部に向かい戦闘準備を行う。
『緊急事態発生、緊急事態発生。全オスロ市民は至急最寄りのシェルターへ非難して下さい。これは訓練ではありません。繰り返します。これは訓練ではありません。全オスロ市民は至急最寄りのシェルターに非難をしてください』
オスロに緊急警報がこだまする。連絡用端末も確認するが、通信ができない状態だ。停電で通信施設も機能していないのか。
ただ事ではない。一体何が起きている。
「小林、室田、無事か!」
銀の声だ。隣にはクロもいる。
「良かった、二人とも無事ね」
クロもほっと胸を撫で下ろしている。
「銀、現在の状況は分かるか」
「分からん。ご覧の通り、通信も機能していない。だが、ここに来る途中に敵の姿は見た。あれはベイルじゃないな。他の異世界がポータルを開き侵攻してきたらしい」
「敵の数は?」
「一人だ。だが、おそらくあれは異世界転移者だ。しかも、かなり手強い奴かもしれん」
異世界転移者の侵略か。一体なぜ、そんなことを。いや、今はそんな事を気にしている場合ではない。ポータルを自力で開ける程の転移者であるならば、なんらかのチート能力持ちと判断したほうがいい。だが、今までチート持ちの転移者との戦闘経験はアクセリには無いはず。はたして敵う相手なのか。
「ぐんちゃん、大丈夫だった?」
「あぁ、巴ちゃんも無事で良かった」
巴ちゃんと市村もこちらにかけてくる。そこに、アーロンとセシリアも加わる。
「小隊長殿、指揮系統が混乱している。ひとまずここにいる面子で臨時に隊を編制してはいかがか」
「そうだな。では現在いるこのメンバーで現場に向かう。市村、お前は三次の護衛を頼む。小林は室田の護衛を頼む」
「了解」
「アーロンとセシリアは後衛だ。クロ、お前の速い足で先行し、偵察を頼む」
「任せなさい」
クロは軽やかに暗闇のオスロを駆けていく。
「よし、これより出撃する。各員、警戒を怠るな。移動開始」
ジープを拝借した俺達の隊はオスロ中心部へと向かう。街道には民間人が隊員達に誘導されシェルターへと非難している。
相変わらず地下都市の電源は復旧せず暗いままだが、徐々に街に近づくにつれ、街を焼く炎で辺りが明るくなる。
オスロの中心部に到着した。
ここは円形に広がる公園がある。だが、あれだけ美しかった公園はすでに破壊され、瓦礫の山と化している。公園だけではない、周りにあったはずの露天や民家もみな破壊され燃えている。
あれだけ美しかった公園が一瞬で破壊されるとは。だが、この破壊具合からみるに、さっきの爆発がここで起きた事は間違いない。
「誰か・・・助けて・・・」
うめき声が聞こえる。生存者がいた。
「銀、生存者だ」
すぐにアーロンが駆け付け、治療魔法をかける。
「大丈夫です、もう安心ですよ」
アーロンは負傷者に優しく声をかけながら治療を行う。暗がりで明かりらしい明かりは非常灯の他は燃え盛る炎だけだが、暗闇に慣れた目はぼんやりと公園の惨状を映し出す。
黒こげの死体があちこちに転がっている炭化の具合から、かなりの高温で焼かれたことが窺える。
その焼死体に混ざって、先行して駆けつけたアクセリの隊員達の姿があった。あったのだが、みな血を流し、倒れたまま動かない。
「これは酷い」
「室田、まずは生存者の確認を急げ」
「了解」
みな手分けして生存者を捜す。だが、民間人も含め、その殆どが死亡していた。傷口や遺体の損壊具合を見るに、強力な魔法で攻撃されたようだ。
「至急・・・増援を・・・」
いた。アクセリの生存者だ。
すぐに駆け寄り、応急処置をする。
「がんばれ、衛生兵がすぐに来る。それまでがんばれ」
「味方か・・・。俺はもう駄目だ。民間人の救助を優先してくれ・・・。それより、はやく・・・至急、増援を・・・救助が間に合わなく・・・」
隊員の呼吸は乱れ、痙攣も起こしている。腹部を押さえているが、そこから大量に出血している。これだけの出血量ではもう・・・。
「・・・大丈夫だ。民間人の救助は進んでいる。安心してくれ」
「・・・そうか・・・」
傷口を押さえていた隊員の腕が力なくだらりとさがる。
俺は合掌し、認識表を回収する。
言葉にならない暗い感情が心を満たしていく。一体、何が起きた。この惨状はなぜ起きた。
「あらぁ、まだ豚さん達が生きているのねぇ」
艶かしく禍々しい声。
「あらぁ、死に損ないかと思ったら、新しい豚さんたち」
長い黒髪の女が不気味に嗤う。
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