10-4
俺は銀と小林君、それに数名の隊員達と共にポータルへと向かう。アーロンや残りの部隊員は陣地の確保と負傷者の治療の為にとどまっている。
ポータルに接近し、改めて今回開かれたポータルの大きさに圧倒される。軍隊が出入りできるほどの大きさ。これほどデカいと迫力もある。果たして俺に閉じられるのだろうかと思わせられるほどに。
ポータル到着後、銀は市村隊に無線を入れた。
「こちら銀舎利隊。ポータルに到着した。これより任務を遂行する」
無線が応答しない。
まさか、反対側から進行した巴ちゃんの部隊に、何かあったのだろうか。
「こちら市村隊、了解した。こちらもこれより任務にあたる。以上」
よかった。巴ちゃんも無事だ。ほっと、胸をなでおろす。
「室田、出番だ。よろしく頼むぞ」
「了解」
ポータルの縁に手をかける。独特の感触。だが、しっかり掴める。問題ない。
全身に力を込め、縁を押しポータルを閉じていく。今までの人が通れる程度の大きさのポータルに比べたら、重さの様なものを感じるが、それでも問題なく閉じることができている。
平野では異変に気付いたベイル軍が引き返そうと試みているが、中央の部隊が巧みに敵を包囲し、ポータルに近づけさせないよう奮戦している。やはり、急いで閉じなければ。
「おい、銀。中央の部隊から通信だ。何人か包囲を抜け、こちらに向かっているらしい」
「ほう、あの包囲を突破するか。今回の敵は強者が多いな」
照明弾が上がり、戦場を照らす。
「敵兵、確認。あいつらも随分足が早いな。銀、撃ち漏らした奴はたのむぞ」
「問題ない。任せろ」
敵兵の足の速さは、尋常ではなかった。俺が斃した敵兵も恐ろしく足が早かったが、いまこちらに向かってきている敵兵は明らかに重そうな鎧を身に着けているにもかかわらず、短距離走の選手のように駆けてくる。
発砲音。
ポータルの反対側からも狙撃をはじめたらしい。間断なく射撃を行っているようだが、全弾見事に敵の頭を貫いている。
「相変わらず、市村の射撃技術には舌を巻く」
「全くだ。こりゃ、下手に手を出さない方がよさそうだな」
本当に見事だった。照明弾で照らされた敵の影が次々に倒れていく。頼もしい味方の援護を受け、更に全身に力を込めポータルを閉じていく。
反対側のポータルの縁も見えてきた。それと一緒に巴ちゃんの姿も。暗闇で見えなかったが、どうやら巴ちゃんも順調にポータルを閉じているようだ。
胸を撫でおろしたい気分も束の間、残りわずかだというところで突然、巴ちゃんの動きがピタッと止まって動かなくなった。巴ちゃんは明らかに焦った声でこちらに向かって叫んでいる。
「ぐんちゃん、どうしよう、体が動かない!」
「?!攻撃か?誰かにやられたのか?」
「違う!突然、体が動かなくなったの!なにこれ、どうしよう!」
「マジかよ、おい。ポータルは俺が閉じる!巴ちゃんは待っててくれ!」
ここまで来て、こんな事が起こるとは。一体何が起きた?
「どうした、室田」
「巴ちゃんに何かあったらしい。体が動かなくなったって」
「落ち着け、敵の魔法のせいかもしれん。室田はポータルを閉鎖を続行しろ。小林、索敵手伝え」
「おう、任せろ」
暗視ゴーグルを装備した小林君が周囲を見渡し索敵する。
「アーロン。魔力探知は可能か?」
「いけます。少々お待ちを」
不穏な空気だ。今の状況で俺にできることはとにかくポータルを閉じることだ。索敵はみんなに任せるしかない。だが、目の端で何かを捉えた。敵兵の死体が、わずかに動いたように見えた。
「なんだ、あれ・・・。小林くん、あそこの死体の山に・・・」
「あそこだ!敵の屍の下に隠れている!小林、撃て!」
銀がいち早く察知し、小林君に指示する。即座に小林くんは発砲するが、弾道がそれ当たらない。悲鳴と共に、小さな影が死体から飛び出してきた。
「おいおいおい、なんで子供が戦場にいるんだよ!」
目を疑った。大きな先が折れたトンガリ帽子とローブでパッと見は大人のように見えるが、その声、この体躯・・・。
子供だ。それも、女の子。
「ベイルの奴ら、子供まで戦場に駆り出してんのか・・・。銀よ、どうするよ、俺は打てねぇぞ!」
「少年兵か。だが、子供とはいえ、敵には違わない。違わないが・・・」
「俺、さすがに子供は撃ちたくねぇよ!」
敵魔法使いの生残り。まさか年端もいかない少女だったとは。
不格好な程大きな帽子をかぶり、これまた明らかに大きく身の丈に合わないローブを着ているその魔法使いの少女は、息も絶え絶えだというのに、健気にも杖を翳し魔法を使用し続けているようだ。この子が巴ちゃんの動きを封じているのか。
「しかしだな、奴を始末しなければ三次が・・・」
「そうだけどさぁ!」
「・・・致し方ない」
銀は魔法使いを袈裟斬りにしようと刀を振りかざす。
それを見た瞬間、魔法使の少女がまた悲鳴を上げる。相変わらず杖を翳し、魔法を止める気配はないが、腕も足も震えっぱなしだ。おまけに涙をポロポロと落とし、何か必死でこちらに何かを話している。言葉はさすがに分からないが。
「おい銀、何しゃべってるかわかるか?」
「わからん。翻訳の魔道具もベイル相手には効かないらしい」
銀は、足を踏み込み一刀に切り伏せる姿勢を整える。
さらに少女の狼狽は増す。滂沱の涙を流しながら必死で首を左右に振り、ベイル語で何かを叫んでいる。その悲痛さたるや、銀が切り伏せるのを躊躇うほどだ。
銀は刀を構えながら、目を瞑り、沈黙してしまった。
「おい銀、現実から目を背けるな!」
「やかましい!仮にも上官に向かって、なんだその言い草は!」
二人もまた、少女へとどめを刺せず、困惑している。だが、次の瞬間、銃声が響いた。
銃声は三つ。
一つは少女が持つ杖に。一つは少女の肩に、最後の一発は胴体に目命中した。撃たれた少女は、声もなく操り糸が切れた人形のように倒れ伏す。
「馬鹿!あんたら何やってんの!」
市村があらん限りの怒号が響く。やはりあの命中の精度、どうやら市村による射撃だったらしい。
「はやくポータルを閉じないと!巴ちゃんがもう限界なのよ!」
般若の如き形相で銀と小林の元に駆け寄り、兜の上から拳骨をお見舞いしている。
「くっ、すいません・・・」
「面目ない・・・」
「すべて片付いたら説教してやるから覚悟しなさい!室田特技兵!」
「はっ、ハイ!」
こちらにもとばっちりが来た。
「モタモタしないの!早くポータルを閉じなさい!」
「りょ、了解!」
巴ちゃんも、どうやら体が動くようになったらしい。ポータルを閉じ始めた。
「いくよ、巴ちゃん!ポータルを閉じるぞ!」
渾身の力を振り絞り、ポータルの縁を押していく。
いよいよ狭まるポータル。閉じれば閉じていくほど、巴ちゃんにも近づいていき、その姿がはっきりと見えてくる。
巴ちゃんの体は、限界を迎えているらしかった。息が切れ、体は震え、ポータルにもたれかかるような姿勢でなんとか少しずづポータルの縁を押していた。
その姿を見て、俺は発奮した。もうこれ以上は巴ちゃんにやらせてはいけない。力を振り絞り、あと僅かに開いたポータルを閉じてく。
バチン!!
俺と巴ちゃんの手と手が重なる。
ついにポータルは閉じた。任務達成だ。
「こちら司令部。ポータルの消滅を確認。全部隊は掃討戦へ移行せよ。繰り返す。全部隊は速やかに掃討戦へ移行せよ」
歓声が夜明けの平野に響く。
小林も銀も、こちらに親指を立てている。
「やったね、ぐんちゃん・・・」
満身創痍の巴ちゃんは、倒れる様にその場に崩れる。咄嗟に抱きかかえるが巴ちゃんの姿を見て俺は戦慄した。巴ちゃんの服が血でべっとりと汚れている。
「大丈夫か!こんなに血が・・・!」
「大丈夫、これ、私のじゃないから・・・」
巴ちゃんは力無く応える。
「敵の返り血・・・。それに、仲間たちの血も。みんな、私を庇って・・・」
弱々しく俺の服を掴み、声も無く咽び泣く。
続々と、市村隊の面々も合流するが、大分数が少ない。その上、手傷を負った兵がほとんどだった。市村隊も激戦だったことが伺える。
空が明るくなってきた。焼かれた平野の煙とともに、朝日も昇っていく。
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