11-1:白銀の獣人、銀舎利

 初任務から数週間が経過した。


 あれから俺と巴ちゃんはそれぞれハルモニアと共に自然発生したポータルの閉鎖作業に従事した。幸い、初任務のように荒れることはなく。淡々と作業をこなす、そんな感じで日々の任務をこなしていた。


 頻度としては、週に一回もあれば多いほうだが、俺達は確実に経験を積み上げていった。また、訓練も次の段階へと入っていく。


 基本的な訓練から次第に集団で行う訓練にも参加できる様になり、徐々にではあるが、戦闘訓練も始まった。相変わらず俺達クローザーは部隊のエスコートを受ける立場にあるが、常に不測の事態は起こりえる。自分の身は自分で守る必要が出てくるかもしれないからだ。


 時計を見る。時刻は朝六時。今日は休養日で、自由行動が許可されている、いわゆる休日だ。


 俺はランニングの支度をし、寮の部屋を後にする。


 朝方の空気はとても気持ちがいい。この空気感の再現もできるとは地下都市恐るべしだ。準備運動をしながら呼吸を整えていると、巴ちゃんが女子寮から出てくるのが見えた。こちらに大きく手を振っている。


「おはよう、ぐんちゃん」


「おはよう、朝から精が出るね」


「お互いね」


 休日とはいえ、規則的な生活を送っていると休日もいつも通り起きてしまう。それにここで働いていると体を動かすのが癖になる。この朝のランニングももはや日課となっているが、特に苦に思ったことはない。元々、スポーツだったり体を動かす事が好きだったし、仕事も肉体労働をしていたわけだから、案外この仕事は性に合っているのかもしれない。


 俺達は一緒に朝のランニングを始める。コースはいつものように基地の外周道路を走る。


「ぐんちゃん、今日の予定は?」


「銀の所に呼ばれているんだ。小林君と一緒に遊びにこいってさ。巴ちゃんは?」


「私はエステルと楓と一緒に街に買い物行く予定。お土産何がいい?」


「気をつかわなくていいよ。楽しんできな」


 いつも思うが、女の子同士は仲良くなる速さが尋常ではない。ハルモニア配属後、巴ちゃんは若い女性隊員ということで市村と共に可愛がられているらしい。エステルも超のつく美人だが、あまりの美貌に畏れ敬われる存在として基地内で認知されているため、女性として見られていないそうだ。本人はその事を少々気に病んでいるようだが、それは内緒の話らしい。


 内緒なら始めから話さないで欲しいが、いつも、ここだけの話だからと押し切られ、内緒話を聞かされる。俺も俺で断れば良いが、楽しそうに話す巴ちゃんを見ていると、どうしても断りきれず内緒話を聞いてしまう。


 とはいえ、ハルモニアの女性職員は異世界人、中核世界人問わず、かなりの人数がいる。しかし、種族の壁を越え、みな仲が良さそうだし、巴ちゃんもうまいこと溶け込んでいるみたいなので、俺は安心している。


 一方、俺も先輩方に可愛がられているが、こちらはなかなか汗臭い可愛がられ方だ。一般人だからと容赦せず、しこたま厳しい訓練を課され、しごかれる日々だ。今日も小林君と銀のところへ遊びに行くという体だが、何らかの訓練が待っているのは目に見えている。


「いつ、くるんだろうね。実戦は」


「そうだね。もうだいぶ経つのに、まだ実戦はないな。でも出動はしただろ。みんなと一緒に」


「なんだか、気が張っちゃうよね。いつ来るか分からない出動を待つのって。また、あの甲冑を着た人達と出くわしたりするのかな」


「そうかもしれないね」


「ぐんちゃんは、怖くない?はじめての実戦って」


「経験した事無いからな。俺達にできる事は、その時が来たら一生懸命やるだけさ。それまではこうして備えるぐらいしかできはしない。心配したって仕方ないさ」


「ごめん、変な事聞いちゃったね。・・・私、支度あるから、先に朝ランすませちゃうね」


 巴ちゃんのランニングのペースが少し上がる。


「おっ、おう・・・」


 走り去る後ろ姿を見送る。そこでふと気づく。俺は何か変な事を言ってしまったのだろうか。他意は無くとも、口下手ゆえに自分の想いが正確に伝わらない事は過去の人生においても多々経験している。にもかかわらず、またやらかしてしまった気がしてならない。


 ランニングを終え、シャワーを浴び、食堂へと向かう。


 まだまだ、約束の時間までたっぷりある。のんびりと朝食のメニューを選びながらふと、巴ちゃんが寂しそうな顔をしながら走り去る姿が頭をよぎる。


「・・・まずいことしちゃったかな?」


 俺は腕を組み唸る。


「どうしました、朝から渋柿みたいな顔して。不味そうですよ」


 軽口を叩いてきたのは小林君だ。


「小林君か、おはよう」


 俺も男性隊員達とはほどよく打ち解け始めている。特に、小林君は階級こそ上だが、年下という事で俺には敬語をつかって話しかけてくる。通常であればそんな気をつかう必要は無いはずだが、ハルモニアの隊員達はそこまで階級に拘っていないらしく、みなフランクだ。


 今ではすっかり、仲良くなって時に馬鹿話もするほどだ。そんな彼に今朝の顛末を離してみたのだが、ひとしきり聞いた小林君は憐みの表情を俺に向けるのだった。

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