5-2
ジーナに案内され、更に奥の部屋へと移動する。
実験室と表記されている部屋には、実験の準備をしている技術部の職員達に加えエステルと巴ちゃんが既に入室し談笑していた。
それにしても、技術部も他の部署のように、多くの人種が共に働いている。中核世界の人間のみならず、エステルやジーナのようなエルフの他に、ドワーフや亜人に獣人、それから、魔族と呼ばれるゲームに出てくるモンスターのような人々。実に多様な人種が働いている。
「やぁ、室田。すまんな、急に呼び出して」
「気にしないで下さい。仕事ですから」
最近は、俺もエステルに慣れてきた。エルフはハルモニア関係者だけでなくオスロにも民間人として多数生活している。皆ビックリする程の美男美女揃いで、隣に立とうものなら自分の不細工さが際立ち肩身の狭い思いをする。
特に女性のエルフに関しては、中核世界の男達にとってはアイドルのように崇拝されている。とりわけ、エステルは同じ男からも女からも賞賛される美貌であるからして、普段から女慣れしていない俺にとってはまともに目を見て話すのも憚れるように感じてしまっていた。エステルがエルフの中では不細工扱いされる容姿という話も聞いたが、そんなことあるのだろうか。エルフの顔面偏差値の高さは天井知らずか。
挨拶もほどほどに、実験の準備が進んでいく。
「では、早速だが実験に移るとしよう。君達の能力に付いて私なりに仮説を立ててみたのだが、おそらく君たちの能力は手のひらに強力なバリアのようなもが形成される。あるいは、斥力が働くのではないかと考えている。現時点ではポータルを閉じる事は公園の一件で確認済みだ。そこで、今回は能力の発動を目の前で観察したい」
「了解しました」
「私がラークスに繋がるポータルを開く。それを、君達の能力で消して欲しいのだ」
「わかりやすくて、ありがたいです」
「よし、それではさっそく取り掛かろう」
エステルは実験室の中央に移動すると、杖の先を足下に向け、なぞる様に足下に半円状にゆっくりと動かしていく。杖は鈍色の光を淡く放ち、それに呼応する様に足下にも同じような光を放つ模様や文字が浮かび上がってくる。見た事の無い文字。これがラークスの文字なのだろうか。
浮かび上がった文字や模様は一つの円の中に収まり、機械仕掛けの様に規則的に蠢く。これがいわゆる魔方陣というやつなのだろう。まさにファンタジー。思わず息を呑み魅入る。
「さて、魔方陣はこれで完成だ。それでは、ポータルを開くぞ」
魔法陣が空中へと浮かび上がると、轟音と共に魔法陣がひゅるひゅるとひも状に解けながらものすごい速さで回転し、光の球を形成する。なおも回転する光の球は次第に輪っかになり、その輪の中にはのどかな平原の風景が広がっている。
「これが、ポータル・・・」
確かに、あの夜公園で見たものと同じだった。光の輪の中に景色が見える。これが、ラークスの世界・・・。
「きれいな草原ですね。これがラークスの世界ですか?」
巴ちゃんは興味深そうにポータルの中を覗いている。
「美しいだろう。ここはラークスで一番広い草原で、人もいない。何か事故があっても大丈夫だぞ」
エステルもブラックジョークがお好きなのか。苦笑いしながら、俺はポータルに近づいていき、ポータルの縁へと手をのばす。
恐る恐るポータルに触れるが、何も起こらない。市村は、普通の人間が不用意に触れれば消し炭になると言っていたから、内心ビクビクしながら触ったのだが、何事もなくてよかった。
あたりから、安堵のため息や、驚きの声が上がっている。
「よかったー。触った瞬間、爆発四散するかと思ってヒヤヒヤしてましたが、何事もなくてよかったです」
そう言い放つジーナをエステルは窘めている。しかし、驚愕の眼差しを向けている技術部の面々の様子を見ていると、やはりポータルに触れることが出来るということが、どれだけ驚愕であるかを物語っている。
様子を見守っていた巴ちゃんも、ツカツカとポータルに近づき、何気なくポータルの縁を触る。
「やっぱり、私も触って問題ないんだね」
さらに大きな声がそこかしらから上がる。気づけば、技術部の面々は喧々諤々の議論を始めている。
その熱気たるや、変態と言わしめるほどの熱量を肌で感じ、思わずたじろいでしまうほどだ。
「お二人とも、ポータルの縁の感触はどうですか?」
「んんーー・・・。なんかヒンヤリしている気はしますが、感触はよく分かりませんね」
「確かに。冷静に見てみると、触っている感触はないかもしれない。握ってみルト、硬めのスポンジを握るような感じしますけど、磁石で反発を受けているような、そんな抵抗を感じます」
エステルはじめ、技術部一同が俺と巴ちゃんの手元を凝視している。なんという、目力。思わず後退りしてしまいそうだ、
「ふむ・・・。どうやら、斥力の線が高そうだな。室田、巴。ありがとう。貴重なデータがとれたよ」
「お役に立てて、何よりです」
ひとまず、心の重荷が少しではあるが、軽くなった気がした。俺達は半ば強制的にハルモニアに引き入れられたわけだが、実は巴ちゃんも俺もここでの生活に愛着を感じ始めていたところだ。そこにきて、能力が使えなかったりした日には、放逐されてとしても仕方がないが、そうなると行く当てがない俺達にはとても寂しいことになってしまう。
「てっきり、みんな触れるものかと思ってたました。初めてポータル見つけた時も。異世界の人間がポータルからにじり出てこようとしていたので」
「何?それは本当か?」
エステルとジーナはとても興味津々に俺の話に食いついた。
「通常、ポータルは高出力の魔法で半ば無理やり二つの世界に風穴を開けるので、そのポータルの縁はその風穴を開け続けるだけの膨大な魔力が発生しています。生物であれば触れた瞬間、消し炭になってもおかしくはないはずですが・・・」
ジーナは首を傾げながら俺の話を訝しんでいる。
「たしかに、例外はありえます。ポータルを開く魔力にも劣らない高レベルの防御魔法がかけられていれば、可能かもしれません。一兵卒にそこまでの超高位魔法をかけるのは考えにくいですが・・・」
「あ〜・・・。鎧を着てましたし、鎧はノーカンだったりするんでしょうか?」
「あっ、それ前例があって、鎧着てても触れたら中身だけ消し炭になってました。理由は不明ですが」
「ヒッ!」
「肉体だけ焼けるはずなら、あの鎧の兵士の中の人って、一体なんなんでしょうね。人間ではなかったりして」
俺は何気なく言ってみたつもりだが、エステルもジーナもじっと考え込んでいる。
「可能性は捨てきれないな。しかし、判断するには情報が少なすぎる。このことは頭の隅に置いておこう。では、引き続きこの能力の解析を始めるとしよう。皆、はじめるよ」
ひとまず、気持ちを切り替えることにする。
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