異世界、ダメ、絶対！！もう誰も異世界には行かせません！！

4-3

「どうしよう、ぐんちゃん！」

「ポータルを閉じる！全力で押せ！」

　俺達はポータルの両端に立ち、力一杯ポータルを押し潰していく。

　ポータルは縁の湾曲に合わせ、両側から潰されていき縦長の楕円状に形が変化していく。

「いけるぞ、このまま押し込め！」

「わかった！がんばる！」

　鬨の声が響き渡り、風切り音が鳴る。ポータルからボウガンの矢が次々と飛び出し俺達の足下に刺さる。

「ヒッ・・・」

「怯むな！全力で押せ！もう少しだ！」

　さらに鬨の声が近づく。もう目の前まで来ている。もう少しだ。もう少しで閉じる。

　ガシャン！！

　ポータルが閉じる後一歩のところで、金属が軋む音とともに、剣を握った鎧姿の男の片腕と上半身がポータルから飛び出すしている。近くで見ると、まるで中世のヨーロッパの騎士みたいな出で立ちだ。

　その騎士と目が合う。ヘルムの中から僅かに覗く目は間違いなく人間だ。そして、明らかな敵意をむき出し、俺を睨みつける。

　鎧を着た異世界人は、僅かに開いているポータルに無理矢理体をねじ込み、ポータルを広げ、どうにかこちらへ出ようとしている。

「ぐんちゃん、どうしよう！」

　巴ちゃんの声に反応した鎧の異世界人は強烈な肘打を巴ちゃんに喰らわせ、弾き飛ばした。

「巴ちゃん！」

　さらに騎士は、剣を引き俺の胴の中心めがけ突いてくる。俺は片手でポータルを抑えながら半身を引きギリギリで剣を躱し、騎士の腕を空いている片手で抱え込み動きを封じる。

　騎士は力づくで、腕を解こうとするが、全力で押さえ込む。なんて力だよ、うちの会社で働いてくれたら頼もしいくらいの力じゃないか。

　騎士は力づくで腕が解けないとみるや、首を後ろに仰け反らせる。

　次の瞬間、首をのけぞらせ、頭突きをしてきた。

　鉄兜の頭突きは効いた。凄まじい衝撃と強烈な痛み。頭が割れるようだ。思わずポータルを抑える手の力が緩み、さらに騎士が体をねじ込んでくる。

　騎士のヘルムから嘲笑の声が聞こえてくる。この野郎、舐めやがって。

　さらに騎士は頭を仰け反らせ、もう一撃頭突きを仕掛けるつもりだ。ふと騎士の後ろで倒れている巴ちゃんの姿が視界に入った。動いていない。畜生、なんてことしやがるんだ、女の子相手に。

「肉体労働者舐めんじゃねぇぞ！」

　こちらも頭が爆ぜる勢いで騎士のヘルムに全力で頭突きをかます。

　怯んだ騎士の腕の力が抜ける。これは脳震盪を起こさせたかもしれない。チャンスだ。俺は力任せに、騎士の頭をヘルムの上からやたらめったら殴りつける。

　ヘルムから騎士のうめき声が聞こえた。効いてる。俺はさらに力を込めさらに拳を叩き込む。何度も何度も何度も何度も。

　ヘルムはべこべこに凹んだ。騎士はよろめき、ポータルの中へと倒れ込んでいく。その瞬間を見逃さず、渾身の一撃を加え、騎士をポータルの中に押し返した。

　ポータルの中にいる他の騎士達は、倒れ込んだ騎士の変形したヘルムを見て狼狽えている。

　今だ！

　完全にポータルを閉じるべく、俺はポータルの正面に回り込み、両腕でポータルの縁を掴み、潰すように閉じていく。

　急げ、騎士達が体勢を立て直す前に、このポータルを閉じるんだ。

　もう少し、もう少し。ポータルはさらに縦長の楕円に伸び、もう顔ほどの幅しかない。だが、騎士達はまだ諦めていなかった。一人の騎士が槍を投げようと構えている。

「ウォォォォォ！！」

　俺はあらん限りの大声で威嚇し騎士を怯ませる、最後の力を振り絞りポータルを閉じた。

　バチーーーン・・・・・・。

　ポータルが閉じた俺の手がぶつかり合い、合掌音となって響いた。

　辺りは暗闇と静けさが戻っている。

　自分の鼓動と息吹が、耳に響く。呼吸を整え、なんとか冷静さを取り戻そうとするが、興奮が冷めていくほどに体が痛みを感じ始めた。頭からは流血し、鈍痛が脈に合わせ頭を駆け巡る。それに、鎧を殴りつけた拳傷つき、指の骨がグチャグチャに折れている。よく見れば、腹からも血が流れている少し剣が擦っていたらしい。

「巴ちゃん・・・」

　俺は痛みを堪え、傷口を押さえながら、巴ちゃんの元へ向かう。

　次の瞬間、再び閃光が走り辺りは明るくなる。今度は何だ。

「その場から動くないでください。跪き、手を頭の後ろに置いてください」

　今度は日本語だ。周囲はやけに物々しい音がしている。手を顔の前にかざし、指の間から明かりの先を見ると、女性が立っているのが見えた。その後方には小銃らしき物を持った男達が大勢いるのが分かった。皆照準をこちらに向けている。こいつら、軍隊か？

「我々はあなた方を保護しにきました。抵抗せず我々の誘導に従って下さい」

　俺の胸元には赤いレーザーポイントがいくつも狙いを定めている。保護とは笑わせる。だが、従うほか道はなさそうだ。巴ちゃんを置いて一人で逃げるなんてできないし、かといって抱えて二人で逃げるにはもう体力が残ってない。

　俺は膝をつき、両手を頭の後ろに回す。

「ご理解頂き感謝します」

　速やかに兵士達が俺を拘束する。巴ちゃんは担架に乗せられ運ばれていく。今この状況で、俺になす術は無い。兵士に言われるがままトラックへと誘導され乗り込む。

　辺りを見渡すと迷彩服を着た兵士達が忙しく動き回っている。どうやらこいつらが軍人である事は間違いないようだ。一体何をしているのやら。

　目がかすむ。そう言えば、頭から血が出ていたんだった。それに、とても疲れた。頭がショートしそうだ。血もだいぶ流してしまったようで、どうにも意識がハッキリしない。トラックに揺られながら、俺はまどろむように意識を失っていた。

　一体、これからどうなるのか。おやっさんや奥さん、れん君、それに巴ちゃんと慎ましくも楽しかった日々の思い出が、落ちていく意識の中で走馬灯のように駆け巡る。