『ゆっくり確認させてもらおう』


そう言った舞華まいかに対し、<あさぎ>は、千治せんじに「もういい、台を戻せ」と命じられてそっと戻し、穏やかな微笑みを湛えながら言った。


「私は現在、<お試しモード>で稼働中となっております。私のすべての機能をご利用になさりたい場合は、ユーザー登録が必要となります。ご了承ください」


それに対して舞華が問い掛ける。


「ユーザー登録には何が必要だ?」


<あさぎ>が応える。


「はい。私をご購入いただきました際に添付されておりました小冊子に記されたユーザーコードと共に、行政への登録用のコードが必要となります。<行政への登録用のコード>につきましては、販売店などでご確認ください」


「それがなければ、ユーザー登録はできないということか?」


「大変申し訳ございませんが、私共メイトギアをご利用いただくには取得税の納入と行政への届け出が義務となっております。ご了承くださいませ」


「では、ユーザー登録をしなければ使えないということか?」


「ユーザー登録がありませんと、私の機能のごく一部しかご利用いただけません。また、<お試しモード>につきましては、十二時間が期限となっております」


「それが終わるともう使えない?」


「<お試しモード>をご利用いただく場合には、その都度、仮のユーザー登録が必要となります。こちらは、ご本人のお顔とお名前が確認できれば可能です」


「つまり、十二時間ごとにその<仮のユーザー登録>とやらをすれば、こうやってやり取りくらいはできるのだな?」


「はい。その通りでございます」


「ならいい。お前を試すにはちょうどいいという訳だ」


舞華はそう言って笑みを作った。そしてその場にいた全員をぐるりと見回し、


「では、私の責任においてこの<メイト>をしばらく試すことにする。それでいいな?」


ときっぱりと言った。


千治はもちろん素直に頷いて、美園みそのも戸惑いながらも頷いて、仙山せんざん鹿丸かまるも、不本意ながらも仕方ないという感じで頷いた。


そしてその夜は、メイトを清見きよみ村の集会所へと移動させ、そこで、千治、舞華、美園、仙山せんざん鹿丸かまる、美園の秘書の香瑚たかこ恵果けいか、及び、舞華の秘書の三人全員が泊まり込み、翌日一日も使ってメイトを評価することとなった。




その頃、重蔵じゅうぞう宅で、浅葱あさぎは、そんなこととも露知らず、酔っぱらっていい気分で寝て、夢を見ていた。


それは、彼女が<ねむりひめ>と名付けたメイトと共に氷窟を掘り進め、遂には地上へと達するという夢だった。


彼女の夢の中の地上は、光に包まれ、とても暖かく、でも何もない世界であった。


今の世界しか知らない浅葱あさぎには、緑や花や色鮮やかな光景というものがそもそも知識としてなかったのである。


彼女にとっては、<こことは違う世界>とは、ただ単に氷に閉ざされていない世界というだけでしかなかったのであった。


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