パフォーマンス

「うおっ!?」


「動いた!?」


その場にいた、千治せんじ美園みそのを除く全員が、腰を抜かさんばかりに驚いて後ずさった。


千治に<あさぎ>と呼ばれたメイトが目を開き、上半身を起こしたのだ。


「あなた方が来るまでの間に、多少充電もできたそうだ。今は私をあるじと認識している」


そう言う千治の前で、<あさぎ>はすっと台を降りて、舞華まいかや美園、仙山せんざん鹿丸かまるに向かって姿勢を正し、深々と頭を下げた。


「皆様初めまして。私は、JAPAN-2ジャパンセカンド社製、あさぎ2788KMMでございます。<あさぎ>とお呼びください」


まるで人間と変わらない、しかし今では誰も使わないような古めかしい言葉遣いで話すそれに、千治を除く四人は息を呑むしかできなかった。


しかし千治は落ち着いた様子で、


「<あさぎ>、その台を持ち上げてみせろ」


と声を掛けた。すると<あさぎ>は、「はい」と静かに答えて、躊躇うことなく、分厚い一枚板の木製テーブルを転用した台を、軽々と頭上まで持ち上げてみせたのだった。大人が二人がかりでようやく持ち上がるようなそれを。


「な…あ…!?」


舞華達は声もなかった。人間以上の力を持っているらしいとは、そういうものらしいというのは聞いてはいたが、無駄に背ばかりが伸びた子供のように頼りない姿をしたそれが見せた膂力に、開いた口が塞がらなかった。


「これだけの力を持ったものを活用しないなど、私には考えられない。情報については口外しないように命じればこれはそれを忠実に守る。これはそういう<道具>なのだ」


実は千治は、舞華達が来るまでの間に起動を試みていたのだった。僅かとはいえ充電できていたことで、起動だけなら可能になっていたのである。


そして、自分を仮のあるじとして登録し、命令に従わせたのだ。


「…本当に、人間に従うのか?」


舞華まいかがそれだけをようやく口にすると、千治はきっぱりと答えた。


「道具は人間がいないと何もできない。これも同じだ。人間には逆らえない」


その言葉に、舞華はごくりと唾を呑み込みながら、


「なら、明日一日、様子を見させてもらおう。その上で判断する……」


と告げた。それに対して仙山せんざん鹿丸かまるが、


「市長…! それは…!」


と異議を唱えようとしたが、舞華は手をかざしてそれを制し、言った。


「責任は私が負う。これが果たして人間にとって益になるのか害になるのか、私自身の目で確かめたい……


それに、どうせ明日の公務はすべてキャンセルしたのだ。ゆっくり確認させてもらおう」


こうして、明日一日、<あさぎ>を試してみることにしたのだった。


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