搬出

重蔵じゅうぞうの指示の下、浅葱あさぎ圭児けいじ遥座ようざ開螺あくらが手分けをして凍土にアンカーを打ち込み、ワイヤを掛ける。そして重蔵が<メイト>と思しき<女性の姿をした何か>を床に寝かせ、その体にハーネスを付ける。


『重いな…』


床に寝かせる為に抱えた時、人間の形をしていることから人間を抱き上げる要領で抱えようとしたが、それはやはり人形のようにまったく姿勢を崩すことがなかった。表面は人間の皮膚や服のように柔らかさもあるのに鉄の棒が芯になっているのかと思うほど中は固かった。重量も、華奢そうに見えながら見た目よりははるかに重い。身長としては開螺あくらよりもやや低いくらいだが、確実に七十キロはあっただろう。そして、先程感じた暖かさももはやなく、氷のように冷たい。


『人間とはだいぶ違うな…』


<メイト>が機械であることは分かっている。それも、今ではどのようにして作られたのかまるで想像すらできない程に複雑で精密だった。かつて発見されたメイトは壊れていたらしく全く動かなかったのだが、どこがどう壊れているのかさえ掴むことはできなかったという。


しかし、こいつは確かに動いた。バッテリー残量が三パーセントを切ったというようなことを言っていたから充電さえすればまた動く可能性がある。もしこれが本当に<メイト>でちゃんと動くなら、本当に世界がひっくり返るかもしれない。こんなものが人間のように喋ったというだけで、重蔵はこれに途方もない秘密が秘められていることを感じた。正直、指を失って人生の終焉を迎え、枯れ果てたと思っていた自分の中にざわざわとしたものが湧き上がってきてしまうのさえ感じてしまった。


『まったく…今さらこんなものを見せられるとか、残酷だぜ…』


マスクの下で苦い笑みを浮かべ、ハーネスを付け終えてフックにワイヤーを掛け、それが確実にかかっていることを確かめ、重蔵は浅葱あさぎ達に合図を送った。


合図を見届けて、浅葱あさぎがハンドウインチを操作してワイヤーを巻き取った。ガリリガリリと音を立ててワイヤーが巻き取られていくたびに、<メイトと思しきもの>がゆっくりと持ち上がっていく。それが揺れないように重蔵が手を添えて、部屋の天井に空いた穴へと導いた。


更に氷窟の天井部分に付けたアンカーに掛けた滑車に<メイトと思しきもの>の頭が着きそうになるまで慎重に引き上げて、圭児けいじが足にもハーネスを掛けてそれを遥座ようざ開螺あくらが引き、それに合わせて浅葱あさぎがハンドウインチを少しずつ緩めて氷窟に敷いた分厚い毛布の上に下ろした後はその毛布に乗せたまま引きずって出口まで向かう手筈であった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る