矢野顕子『スーパー・フォーク・ソング』

 どういうきっかけで矢野顕子を聴くようになったか思い出せないのだが、最初に聴いた矢野のアルバムは、たまたま近所の図書館にCDがあった『スーパー・フォーク・ソング』で、しばらくはそればかり聴いていた。何年か後に矢野の他のアルバムを聴くようになってからも、『スーパー・フォーク・ソング』を超える作品はないような気がしている。

 矢野顕子は日本のシンガーソングライターとして独自の地位を築いており、これまでに様々なフォーマットで三十枚以上の(ライブアルバムを含む)アルバムを出しているが、矢野の魅力が最大限に発揮されるのはピアノ弾き語りのソロという形態なのではないかと私は思う。矢野はピアノ弾き語りのソロというフォーマットでこれまでに五枚のスタジオアルバムを出しており、それぞれに良いところはあるが、私は最初の『スーパー・フォーク・ソング』が一番好きだ。後年のアルバムに比べて、収録曲の歌詞がわかりやすい、というのが大きな理由だ。わかりやすいというか、どの曲の歌詞も地に足が付いている感じがする。

 『スーパー・フォーク・ソング』の収録曲のうち、矢野が作詞または作曲に携わったのは四曲で、他は他人の曲のカバーだ。どの曲もしっかりとアレンジが施され、矢野の持ち歌と化している。一度聞いたら忘れられないあの独特な歌声に、時に繊細で時に大胆なピアノ演奏が絡んでいく。それらはしっかりと融け合って一つの音楽になる。一般に合奏において「一つの音楽になる」というのよりも強い意味で、一つの音楽になる。まあ一人で演奏しているから当たり前と言えば当たり前なのだが、歌とピアノの両方に矢野の呼吸がしっかりと聞こえ、それらはぴったりと重なっていてずれがない。バンド編成だとなかなかそうはいかない。むしろ、ずれを楽しむのがバンドというものなのかもしれない。

 それにしても、このアルバムについては、音楽が雄弁すぎてむしろ語ることがないような感じがする。どの曲も名曲だし、演奏もアルバムの構成も完璧と言っていい。先にも述べたように、ピアノ弾き語りのソロというフォーマットにおいては矢野顕子の音楽性のエッセンスが現れる。日本の歌のアルバムで一番好きなものはと訊かれたら私はこのアルバムを挙げる(しかしそもそも私はそんなに日本の歌を聴いていないのだが)。

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