星野源『ポップ・ウィルス』

 ヘビーローテーションと呼ばれる現象がある。ある時期に同じ曲を何回も繰り返し聴いてしまうあの現象のことだ。正確には、ヘビーローテーションという言葉はラジオ放送などで短期間に同じ楽曲を何度も放送することをいうらしいのだが、それが転じてこのような意味になった。私自身について言えば、これまでにヘビーローテーションしたのはYouTubeでPVを見ることができるポップミュージックが多く、ジャズやクラシック音楽でそういう現象が起きたことは多分ない。それはなぜかと考えると、そもそもポップミュージックとはそういうものだという結論になりそうだ。つまり、ポピュラー=人口に膾炙するという名前が示す通り、ポップミュージックは人々に覚えられ口ずさまれるように計算を重ねて作られているからなのだろう。

 先週Apple Musicで星野源の全アルバムが解禁されたので、ここ数日は結構星野源を聴いている。最新アルバムの『ポップ・ウィルス』は四日で三回聴いた。私は星野源の熱心なファンではないが、去年くらいからYouTubeでたまにPVをチェックしていて、曲によってはそれこそヘビーローテーションした。『ポップ・ウィルス』にはそういうヘビーローテーションしたくなる曲が結構な割合で含まれていて、そういう意味でポップミュージックのアルバムとして優れていると言える。しかし逆にそれ以外の曲に関しては印象が薄く、むらがあることをあまり好まない私はこのアルバムを大好きだとまでは言えない。それから、星野は基本的に自分が歌う曲すべての作詞作曲をしているが、私には星野が作詞に関して特別秀でているとは思えない。例えばメロディに対する歌詞の乗せ方によって、ときどき言葉が聞き取りにくくなっているし、そもそもあまり歌詞の内容の焦点が定まっていないというか、メッセージ性が希薄な気がする。

 しかしそれでもなお星野が人々を惹き付けてやまない理由は、その音楽性に依るところが大きいのだろう。本人が大好きだと公言しているディアンジェロやJディラに代表されるブラックミュージックの要素を大胆に取り入れた刺激的なトラックと、日本人好みの素朴なメロディ、これらを絶妙なバランスで組み合わせて、唯一無二の個性を持った音楽を作り出す。Jポップの世界でそういうことができる人材はこれまであまりいなかった。というか、大体Jポップにないものを取り入れようとして音楽を作り始めると、音楽家はJポップではないものを志向するようになりがちだ。星野源のすごさは、なんといってもポップミュージックの内側に留まりつづけながらこうした革新を行っているということなのではないだろうか。

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