死によって引き裂かれる夫婦のお話。
それだけ聞けば、お涙頂戴の物語を思い浮かべるかもしれないが、全くもって違う。着々と進行する病に侵されながら、生に絶望する妻、可奈子と、そんな彼女の幸せを願うからこそ彼女に生きてほしかった聡の想いが切ない。
愛し合うからこそすれ違う思いが苦しい。それなのに、読了後には何処か胸の奥がスゥっとするような、ああ、この作品に出会えて良かったと思わせるストーリー構成と、文章力。作品中に子守唄を取り入れることで生まれる美しい景色。
死×子守唄という皮肉めいたチョイスが素晴らしい。
中でも感動したのが、行間の空白の使い方。
此処まで巧みに空白を使って、ゆったりと、でも確実に訪れる”死”を描写するのには恐れ入った。
兎にも角にも、この作品の良さは、この作品を最後まで読んだ人としか語り合えないと思う。
少しでもタイトルやキャッチコピーに惹かれたのなら、一度は目を通すことをお勧めする。