夏の終わり

五丁目三番地

第1話

指先をみてふいに爪のきれいさに気づいたり、自分とは違う生まれつきのぱっちり二重と目が合うのは少しつらい。女の子だからね。

「好きだよ。」

「愛してる」

リズムゲームの最中に画面の上半分を埋める彼氏からのLINEに舌打ちをかます。

親指を右に流して見なかったことにして同じ曲をやり直したけど結局フルコンボはできなかった。

「ありがとう」

私も好き、とは返さない。返すつもりは明日も明後日もない。それは彼氏が嫌いとか別れたいとか飽きたとかそんな理由じゃなくて、ただ彼が私を愛す感情と同じ大きさで私が彼氏を愛さないから。正確に言うと愛せないから。


可愛い女の子が好きだった。性的な衝動に駆られるような好きなんかじゃなく、清らかで真っ直ぐに美しく毒が隠れる可愛い女の子が好きだった。男が女に抱く好きと同じなんかじゃない。絶対に違う。だから私はカトリックの女子高を受験した。中学時代で男の好きは大体把握出来たつもりだから、高校では女の子どうしの好きを身をもって学びたかった。イエス・キリストも思わず破顔して認めてしまう美しい愛が欲しい。春休みが終わってテストが2回終わる頃には特別仲の良い女の子ができた。彼氏への具体性のない憧れを抱いた女の子。ハムスターみたいに大きな目で騙されやすくて丁寧に育てられてきたのが痛いほど分かる。名前にも愛が付いた愛されるべき女の子。私と彼氏のLINEを見ると「えー!いいなぁ、いい彼氏じゃーん!」なんて。いい彼氏だよね。私が1番分かってるんだけどね。こんなにも裏切りたいのはなんでだろうね。今すぐにでも目の前のセーラー服のリボンを解いて私のものだけにしたい。私のものにする手段がそれしか思いつかないなんて。私も大概汚れて汚されたことを実感する。「優しくていい彼氏だよ。本当に。」大丈夫。私はまだ愛せる。

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