夕日に照らされた女の子ってsn○wよりも5割増で可愛く見えるよな。好きな人だと常に可愛く見えるもんだけど プール後編
「さ、早く終わらせようか」
ゲッチーのその声で私達も動き始めた。
なんだかゲッチー、鶫さんとサチの胸に目線は行くのに、私にはあまり向けてくれてないような気がする。
べ、別に見て欲しいってわけじゃないけど……見て貰えないと興味無いのかな?なんて思っちゃったりして……。
私、2人よりも大きいと思うんだけど、ゲッチーってもしかして小さい方が好きなタイプなのかな。
なんだか残念―――――ってサチ!なんでそんなにゲッチーに向かって胸を強調するの!?
ゲッチーったら、またそっちに目がいっちゃってるし……。
男の子だから仕方ないとは思うけど、やっぱり他の人のを見てると思うと胸の奥が変な感じになる。
これが嫉妬ってやつなのかな?
私もサチと同じようにすれば……なんて思っても出来ないんだよね。
サチはきっとからかってるだけだからできるんだろうけど、好きな人にそんなことをするなんて無理だよ……。
だ、大丈夫!他のところで魅せればいいんだから!
まずはここで掃除を頑張って家庭的な一面を見せるのよ!
私はブラシを手に取って水の入っていないプールの底に飛び降りた。
おお、水無しのプールに入るのは初めてだから、この不思議な感覚がたまらないな。
それにしても、意外とプールって深いんだな。
小さめの女子だと、まだ足がつかないんじゃないか?
俺でも一番浅い所で肩くらいの高さだから、俺より頭一つ分小さい人は足をついて立つが出来ないことになる。
その場合は頑張って浮いておくのだろうか。
ぜひそんな紅葉を見てみたかったし、水がないのが残念だ。まあ、プールの授業までお預けということだな。
「んじゃ、掃除を始めようか」
俺は近くにあったモップを持ち上げて壁をゴシゴシと擦る。
特に汚れらしきものは見当たらないが、念入りに擦っておく。
――――――と、その時。
「きゃっ!」
「うぉっ!?」
俺は上から飛んできた何かによってプール底へと押し倒されてしまった。
僅かに残っていた水たまりの上に倒れたのか、ピチャッ!と水を跳ねさせる音がする。
おかげで背中を打ち付けるなんてことは無かったのが不幸中の幸いか。
俺は恐る恐る目を開けてみる。
目の前にいたのは雅だった。
「ご、ごめん!すぐに離れるから!」
俺に覆い被さるように倒れているのを認識した瞬間、雅は顔を真っ赤にして俺から離れるべく、俺の頭の横に両手をついて体を持ち上げようとする。
なんだか寝たまま壁ドンをされている気分だ。
というか、さっきから彼女の胸の谷間に挟まっているブラシの棒が気になるんだが。
そもそもどうやったら体操服の中にブラシが入って、なおかつそれが谷間に挟まるんだ。
これ、もう奇跡レベルだろ。
彼女の肩くらいまでの長さの棒が、彼女が動く度にどんどん食い込んで行っているような気がする。
なんだかとてもいけないものを見ている気がする。
俺はその危険な光景から目を背けるために目を閉じる。これで見るなと怒られることは無い。
「あ、ちょ、滑るっ……ぶふっ!」
雅が手を滑らせて再度俺の胸にダイビングしてきた。普通に痛いからやめてくれ……。
「ご、ごめんゲッチー」
「いや、大丈夫だ。落ち着いてから立ち上がってくれ」
まあ、思春期男子の俺としては、美人なクラスメイトに密着られるのは悪い気はしないよな。
かといってこのまま放置というわけにも行かない。
だって、俺の好きな人がこちらをじっと睨んでいるから。
俺は紅葉に見合う男として、紳士でいなければならない。
ただ、意識するなと言うのも無理なわけで、いつもよりも早く鼓動する心臓の音が雅にバレていないことを祈る。
「新庄さん、あまり人の彼……ごほんごほん……部員とイチャつかないでもらえるかしら?」
もう限界だと言わんばかりにびちゃびちゃと水を跳ねながらこちらに駆け寄ってきた紅葉が、雅を引っ張って俺の上から離れさせた。
ていうか、今彼氏って言いそうになったよな?
本音が漏れそうになったってことか?
これ、相当焦ってるな。
俺は紅葉の表情を見てそう感じた。
実際にはあまり変わっていないように見えるが、まだ何もしていないというのに汗が垂れているし、何より本音が出てしまいそうになるほどなのだから。
まあ、雅も俺のことは恋愛対象と思っていないだろうし、俺は紅葉一筋だから安心して欲しいところだが……。
そんなことを言える訳もなく、紅葉と雅との喧嘩が再度勃発した。
「私とゲッチーは友達なんだから、別にいいですよね?どこに文句があるんですか」
「友達の定義が分からないところだけれど……明らかに行き過ぎているのは分かるわ。不愉快よ」
「私にとっては鶫さんのその態度の方が不愉快ですけどね」
「……言ってくれるじゃない」
とてつもなく嫌な予感がする。
絶対にここで止めないと行けないんだろうけど、一瞬躊躇ってしまった俺にはもう手遅れだった。
紅葉は足元に落ちていたビート板を拾い上げると、それで雅の肩を叩いた。
「ちょ、ちょっと!そういうのは反則じゃないんですか?」
「この戦場にルールなんてないわ。負ければ死ぬ、それだけよ」
なにやら俺の最愛の人が物騒なこと言い始めちゃったよ……。
ここ戦場じゃなくてプールなんだけど。
どちらかと言うと洗浄して欲しいんだよな、プールを。
「いきなり暴力だなんて最低ですね。ですが、そこまでされたら私だって黙ってはいられませんよ」
待て、雅、お前までビート板を手に持つな。
ブラシを谷間から取り外すのにちょっと手間取るなよ。
ビート板だから柔らかいし痛くもないんだろうけど、それでも2人の目が本気だった。
諦めを感じた俺はプールサイドに腰掛けた。
2人が落ち着くまで見守ろう。
あの二人のことだし、やりすぎるなんてことは無いだろうからな。
俺は小さくため息をついた。
まさかビート板を人に向かって構える日がくるとは思ってもみなかったわね。
やっちゃいけないことだとは思うけれど、恋は盲目と言うもの。今はそんな常識は忘れてしまおう。
心の中で今の自分の姿を嘲笑した私は、ビート板をさらに強く握る。
この戦いは私にとって唯斗くんを賭けての戦いでもある。絶対に負けられない。
「鶫さん、行きますよ!」
新庄さんがそう言って私に向かってビート板を振り下ろしてくる。
いくらビート板でも怖いわね。
けれど、逃げるにしては軽すぎる。
私はビート板を頭の上で水平に構えて新庄さんの攻撃を受止めた。
運動能力的な戦闘力は私ではあなたに敵わないでしょうね。でも、そこに唯斗くんが絡めば話は変わる。
常人では愛の力には到底及ばないもの。
私は新庄さんのビート板を押し返すと同時に、自分のビート板を水平に振る。
パァン!
新庄さんの脇腹に攻撃が命中して心地いい音が響く。
パァン!
彼女も負けじと私の太ももに攻撃を命中させてくる。
さすがは全力で遊んでいるだけあるわね。身体能力と動体視力が私とは桁違いよ。
けれど、これで終わらせる!
私は大きく後ろに下がってから、新庄さんに向かって走り出した。
彼女もまた、同じように私に向かって走ってくる。
互いにビート板を振り下ろして―――――――。
その瞬間、プールサイドから何かが飛び降りてきて、私たちの間に割り込んだ。
ポスッポスッ!
「プールで走ったら怪我しちゃうよ〜?」
それはサチさんだった。
彼女は両手に持ったビート板で私達の攻撃を受け止めている。
それを見た私の頭は急に熱が引いたように冷静になった。
私、ついカッとなって大変なことしちゃった!?唯斗くんも見てるのにビート板を振り回すなんて……。
こんな女の子、嫌われちゃうかもしれない。
そう思って唯斗くんのいる方を振り返った。
「―――――あれ?」
唯斗くんはプールサイドで横になっていた。
近づいてみると、心地よさそうな寝息が聞こえてくる。
疲れが溜まったいたのかしら。
彼の幸せそうな寝顔を見ていると、胸が温かくなるのを感じる。
ここで彼を起こすのは外道よね。
こんなに幸せそうなんだもの、起こすなんて可哀想。
私は3本のブラシを手に取って新庄さんとサチさんのところに向かった。
「な、何よ……今度はブラシで殴る気じゃ……」
「そんなわけないでしょう?掃除をするのよ」
「あ、そっか、それが目的で来たんだった。すっかり忘れてたなぁ……」
私は2人にブラシを手渡す。
「早く終わらせてあげましょう、唯斗くんが目覚める前に」
新庄さんの目線が一瞬、プールサイドの方に向いたのが分かる。そしてその直後、私の顔を見て微笑んだことも。
「今日の決着はまた今度、別の形で付けましょうか」
「ええ、望むところよ」
これは宣戦布告と受け取っていいのよね?
大丈夫、唯斗くんを想う私の気持ちは最強よ!
新庄さんなんかに負けるはずがないもの。
けれど、ひとつ疑問があるのよね。
どうして彼女にとって友達であるはずの唯斗くんのことになると、彼女はあそこまで私に突っかかってくるのかしら。
悲しいことに私には友達がいないから分からないけれど、そういうものなのかしら。
けれど、唯斗くんに向けての言葉は本音じゃないのよ。本当は唯斗くんのことが世界一好きなの。
だから彼女が突っかかってくるのは見当違いなのよね。
それをわかってもらえる方法があればいいのだけれど……。
素直になるってやっぱり難しいわね。
「―――――ん?」
「あら、目が覚めたのね」
いつの間にかプールサイドで寝てしまっていたらしい。目が覚めると、目の前に紅葉の顔があった。
「目が覚めたのなら頭をどけてくれると有難いのだけれど」(唯斗くんに膝枕しちゃった♪すごく幸せな時間だったよぉぉぉ♡)
膝枕……?ああ、この頭の後ろの柔らかい感触は紅葉の太もも―――――――って。
「えぇ!?」
「急に変な声を出さないでくれる?気持ち悪い」(ど、どうしたの唯斗くん!?)
「いや、その……」
周りには他に誰もいない。雅もサチさんももう帰ったのだろう。
窓の外から差し込む光はオレンジ色になっているし、あれから相当時間が経っているのがわかる。
3人で掃除を終わらせてくれたのかと思うと、申し訳ない気持ちになる。
今度なにか奢ることで許してもらおう。
雅への奢りが積み重なっていっている気がするけど……。
だが、今はそれよりももっと気になることがある。
「紅葉、ずっと膝枕してくれてたのか?」
もしも彼女が首を縦に振れば、ツンツンな彼女のデレの部分がおもむろに顔を出したことになる。
それはもう俺にとって破壊力抜群の出来事なわけで……。
「いいえ、あなたの寝相が悪すぎて勝手に私の太もも上に頭を乗せてきただけよ」(だってプールサイドって硬いもん!唯斗くんが頭を痛めたらやだもん!)
首を縦に振らなくても破壊力抜群だった。
心の声の内容が可愛すぎる。
そこから、俺のことを一番に考えてくれている事がよく伝わってくる。
例え心の声でしか本心を聞けなくても、これは言っておくべきだろう。
「紅葉、ありがとうな」
紅葉は俺から目を逸らして、オレンジ色の空を見上げながらいつものように俺を鼻で笑った。
「あなたに感謝されるいわれはないのだけれど」(私が勝手にしたことだから気にしなくていいよ♪)
「いいや、お前は俺を放置してその場を離れることも、帰ることも出来ただろ?それをしなかったことが俺はすごい嬉しいんだ」
「そういうのは人として良くないと思っただけよ。特別あなたに何か想い入れがある訳では無いから、勘違いはやめてちょうだいね」(置いて帰るなんてできないよ!唯斗くんの寝顔が見れるだけでも幸せだったもん///ああ、思い出しただけで胸が///唯斗くん大好き♡)
心の声での告白。
何度聞いても慣れるようなものじゃないな。
俺はそう思いながら、オレンジ色に照らされた彼女の横顔を見つめた。
その横顔はいつもと変わらないようにも見えたが、どこか幸せそうにも見えた。
「帰りましょうか」
紅葉がそう呟いて俺の横を通り過ぎた。
紅葉には外で待ってもらって、急いで着替えた俺は鞄を肩にかけてプールを後にした。
横に並んで帰るのはいつぶりだろうか。
そんなことを思いながら帰路につく。
学校を出てから一言も会話は無いが、それでも俺は幸せな気分だった。
やっぱり俺は紅葉のことが世界一好きなんだと、改めて感じた。
彼女も俺と同じ、いやそれ以上の気持ちでいてくれたなら、俺はきっと本当に世界一の幸せものだろう。
くしゅんっ!
プールサイドで寝ていたからか、風邪を引いたらしい。
「大丈夫?うつさないでちょうだいね」(うつしたら治るっていうし、私がちゅーしてうつされて――――なんて、大胆すぎるわよね///)と言われて、突然のちゅーというワードに俺は顔が熱くなるのを感じた。
温かい陽気にあてられたのか、この幸せな雰囲気に呑まれてしまったからだろうか。
俺は一瞬、頭がくらっとするのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます