第2話
山と山に囲まれた深い森の中、動物たちがいた。
四匹とも寄り添うようにして立っている。彼らに近づくまでその大きさは見当もつかなかった。
「…でかいな」
「でかいですね」
茂みに隠れ監視するかのように動物たちを見ていた。
二メートルほどの身長と二足歩行。明らかに化け物ではないかと疑うレベルだ。
「あれが化け物か?」
「いや…ちがうみたい」
ルノの視界からははっきりと見えていた。
妖精を連れている。動物に見えるけど、彼らは元は人なのだ。しかも、報告に合った通り”動物に姿を変えられた人”。
「おい、ちょっとまてよ」
カリアの制止の声を無視し、立ち上がった。茂みから姿を現し、動物たちの方へ歩み寄った。
「何者だ!?」
ルノは平然とした顔で「旅の者です。道に迷ってしまい、途方に暮れていました。そしたら、話し声が聞こえてきたんです。それで、近づいてみたら…なんと動物さんたちでびっくり。ついつい、お話ししたくなってきちゃいました」と明らかに警戒レベルの方便だ。カリアはいつ攻撃されてもおかしくはないよう魔法の準備を整えていた。
「俺らを見てなんとも思わないの?」
自分たちの身体に指を指して、平気なのかと尋ねていた。
「自分の知り合いにも同じような人たちがいたので、大丈夫ですよ」
にっこりとはにかむ。
動物たちは互いに顔を見合わせ、なにやら相談している。
「知り合いって…俺らと同じような奴って他にもいるんだな」
「どうする? 聞いてみるか」
「いや、ハンターだったらどうするんだよ! 今の私ら魔法でさえ使えないんだぞ」
「やっぱ…信用できないよなー」
くるりと振り向いた。
最初に声を出したのはリーバーだった。
「俺達を見ても怖がらないの?」
「だから言っただろ。同じような人たちがいるって」
次に梟が訊いていた。
「その言葉、信用してもいいのか?」
「信用してくれるにはどうしたらいいのかな」
「まずは、何者で、何しにここに来たのかを証明してくれよ。俺の能力〈真偽区別〉の前では通じないから」
異能力を使えるのか。やはり、妖精持ちは手こずる。妖精がいたあの頃がとうに懐かしく感じさせる。
「まずは、君は何者なのかな。そこに隠れている人もそうだよ」
茂みに隠れていたカリアも当にバレていたようだ。
カリアは茂みから出て、ルノのそばに立った。
「嘘偽りなく…ね、ぼくの名はルノ・クロノア。〈ウィッチウィザード〉の団員。この近辺で人が動物に変わるという報告を聞いて、解決するために来たんだ」
「おいおい、全部言うのかよ! 頭イカレているぜ」
ぼそぼそとカリアから耳にささやかれるが、梟の能力を前にして嘘は敵対するリスクが高い。なら、真実を話せば問題はないと思ったからの行動だった。
「んで、そちらの赤毛くんは?」
チッ…舌打ちし、髪をクシャクシャと掻きながら正直に言った。
「後で覚えておけな。俺の名はカリア・シルフィ。炎の魔法使い〈上級〉だ。ルノの先輩。おい、動物さっさと説明しろよ。俺はダチがこの場所で殺されているんだ」
ワナワナと拳が震えている。マーノのことを思い出しているんだろう。化け物の正体がもし、この動物たちであるのなら、カリアはすぐに決行しているだろう。
「もし、事実なら。俺はお前たちを殺す!」
動物の一匹ヤギが答えた。
「マーノ? あの青髪のマーノのことか!?」
「知っているのか!」
ルノが尋ねるとヤギは「ああ」と答えた。
カリアの怒りを一旦抑え、彼らから事情を聴かされた。
彼らは動物の姿に変わってから三日ほど経過しているらしく、徐々に動物へと変わっているのだと言っている。思考も人間だったころの記憶は徐々に抜けているらしく、名前とどんな容姿だったか妖精を連れているかしか覚えていないという。
困っていたところをマーノという魔法使いに助けられ、事情を話したところ、助けてやると言ってくれたのだという。
約束の場所で日時を決めたものの、一向に現れないところ不審に思い、この広場までやってきたとき誰もいなかったそうだ。
マーノが遅れているのだと思い、その場でじっとしていた…と。
「信じられないな」
舌打ちし、動物の話を信じるのかとため口を吐く。
カリアはそっとしておき、動物たちにまずは、マーノがどこへ行っていたのかを尋ねると、山を越えた先にある村へ行ったという身身寄りの情報をもらえた。
「そこへ行ってみよう…」
「あぁ? 動物の話を信じるのか?」
カリアは信じようとしていなかった。無理もない喋る動物を前にして冷静に話しを聞けることはない。
「それじゃ、ぼくは行ってくるよ。カリアはここで――」
「俺は別の方へ行く」
ルノが行こうとしている先ではなく別の方向へ行こうとしていた。
「別行動はきけ――」
「ヘマをするようなやつとはついていけない。それに、仮にマーノを見殺しにしたかもしれない連中なんだぞ! 俺はぜったいいかない。それに、俺は化け物の存在を確かめる。森にいれば会えるはずだからな…」
ヘマ…って、きっと茂みから黙って出たことに起こっているのだろう。カリアは芯が強いけど、自意識過剰なところがあると思う。人のこと言えなけど。
「俺が上空から見ておきますんで」
そう言ってカリアの後を追うように梟がバサバサと上空へ羽ばたいていった。それを見上げていた残りの三匹の動物と共にルノは村へ急いだ。
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