第11話

 少し離れたところでラタとクロエがなにやら密談をしていた。

 二人でひっそりと会話をしているところを偶然ドーン選手が発見した。


「……」


 二人の会話を聞くことができなかったが、ドーン選手は冷や汗を掻いていた。自分の身に降りかかる危険の知らせだった。


 ルノ選手 VS ドーン選手の試合で、ドーン選手は棄権した。

 理由は体調不良で急に参加できなくなったと言っていたのだ。


 不名誉な結末でルノ選手の勝利が決定したが、途中棄権したドーン選手を非難する観客が多くいたのはドーン選手が名の知れた実力者であることをよく知っていたからだ。


 一時ルノ選手を非難していた連中もいた。

 ルノ選手がドーン選手に勝つために何かしたのではないかと。事実キルア選手も何が起きたのか定かではなく倒されている。


 ルノ選手の卑怯な手によるものではないかと疑心暗鬼が広がりつつあった。


 そのころ、ドーン選手は逃げるようにルーイン国から逃走していた。

 自分が殺される。そう確信した行動だった。


(アイツら処刑人だ! クソッ! どこでばれた? なぜここにいるとバレた? クソ! あの賞品は俺のものになるはずだったのに……クソクソクソクソッオオオ!)


 歯を食いしばりながら急いでこの町から離れようとしていた。

 追っ手がいつ気づくかもしれない。いや、もう気づいているのかもしれない。


 空を切る一本の矢が飛んできた。

 殺意に気づき、一瞬の判断で矢をすれすれで回避した。あと数センチ進んでいたら確実に肩を射抜かれていたところだった。


「逃がしはしませんよ〈土人形のドーン〉選手」


 茶髪の少年がゆっくりと歩んできていた。

 ドーン選手は汗だくでその表情から緊張と恐怖を表していた。



***


 ドーン選手の敗退にルアは決勝戦へ上り詰めた。

 あと少しで師匠の杖に手を伸ばすことができる。あと一試合。この勝負がルノにとって大きな歩みの第一歩となる。


「あと少しで届く! あと少しで…」


 ひょっこりとルノに覗き込むかのように下から『あと少しね』とクロノが微笑んでいた。


『師匠の杖を奪うことはすごく簡単なこと。だけど、あえてそうしなかったのは、自分の実力を知るため――』


 独り言のように聞こえない声…口パクでクロノは喋っていた。


『――ではなく、師匠の杖の本当の記憶を触れさせないため。許してルノ。もし、仮に嘘の情報(こと)でもルノを復讐者として歩みさせたくないの。オーガスティン(師匠)の遺言。杖がもし手に入れようとしたとき、私は全力であなたを止める。だって、師匠に執着するあなたを私は嫌っているから』


 ルノは褒めてくれているのと思い照れていた。

 やっぱりだ…クロノは不敵な笑みを浮かべた。


 信頼しきっている。ルノをどうにかしてやりたいと師匠の前では何もできなかった。いまならやれる。自分ひとり占めにできる。

 この試合で勝利をおさめたら、ルノをゆっくりと包容し、抱きしめ、抑え込む。


 クロノは着々と準備を進めていた。

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