第9話
「私と一緒に遊びましょう~」
ウフフフと不気味な笑みを浮かべ、アリスは眷族を召喚した。
黒の影狼(ブラックシャドウウルフ)。黒い毛並み姿のオオカミ。自らの影から出入りするかのように沈んだり浮いたり繰り返している。
黒の影鴉(ブラックシャドウクロウ)。黒い羽のカラス。姿が消えたり現れたりしている。まるで幻影のようだ。
「お行きなさい。今晩はお肉よ~」
黒の影狼(ブラックシャドウウルフ)と黒の影鴉(ブラックシャドウクロウ)がクロエに突っ込む。
クロエは静かに息を吐いた。
(黒魔法。レベル4〈黒壁(ブラックウォール)〉)
クロエを囲むように展開する黒い牢獄。黒い檻がクロエを守るよりは閉じ込めたと見える。
本来なら相手を閉じ込める際に使うものだが、この時クロエはある策を考えていた。
「怖気ついたのね、かわいそうに。そんな防御壁壊してやるわ」
余裕ある顔をするアリス。召喚した眷族たちをクロエを食い殺せと命令した。
黒の影狼(ブラックシャドウウルフ)が陸地を走り、駆け抜ける。
黒の影鴉(ブラックシャドウクロウ)が飛行し真っ黒い空を作り上げる。
「さぁ、ごちそうよ」
黒の影狼(ブラックシャドウウルフ)と黒の影鴉(ブラックシャドウクロウ)がクロエの〈黒壁(ブラックウォール)〉をすり抜けて入っていく。
アリスが召喚した眷族は影の存在。実体がなく、物質を通り抜けてしまう性質を持ち合わせていた。
黒壁はもはや意味をなさないと思い込んでいた。
「気づかない子は哀れね」
次の瞬間、眷族たちが悲鳴をあげながら次々と消えていく。
黒壁に入っていった眷族たちがバタバタと倒れていく。倒れ、微かな悲鳴をあげたのち塵となって消えていく。
なにかが起きた? 眷族たちを止め、黒壁に入らないよう指示を下す。
「私の友達になにを…!?」
クロエはため息をした。
言わなければ理解できないのかと。
黒魔法。レベル4〈黒壁(ブラックウォール)〉。
黒い檻を展開させ、マナ(この世界における魔法の源(エネルギー))を消滅させる効果がある。敵意や殺意を抱く者は容赦なくマナを消滅させる。
使用者であるクロエには効果が及ばないのが特徴だ。
「黒魔法。レベル4改〈黒敷地(ブラックフィールド)〉」
檻が消え、真っ暗闇が会場を包み込んだ。
マナの消失を広範囲に展開させたオリジナルの魔法だ。
「な――!?」
身体の自由が利かない。アリスは心身と受け止める。身体からマナが消失していく。疲労がたまり自分の意志では体を動かすことも魔法を唱えることもできない。
マナが消失したことによって召喚されていた残りの眷族たちは一瞬にして消えた。
呼吸が乱れる。
前から歩いてくるのは魔物じゃない人だ。けど、このときアリスの視点からは死神にも見えた。
手足がしびれ、体中の穴から汗が流れ落ちた。
(死ぬの? 嘘でしょ!? まだ、私は――)
クロエは足を止め、アリスに向けてトドメの一撃を放った。
「醜く死ね。黒魔法。レベル3〈毒呼吸(ポイズンブレス)〉」
クロエが息を吐く。緑色の煙が空気中を漂う。アリスが見動けないのをいいことに、緑色の煙がアリスの呼吸器官へ侵入すると、ビクンビクンと体が痙攣し始めた。
(これは…毒!?)
肺がひっかかれるかのような尋常な痛みが発した。息をするたびに肺が掻きむされ、咳をするたびに血を吐きだした。容赦ない痛みは息をしなければ助かるかもしれないが、それは死を意味していた。
苦しそうに地べたに倒れ、自らの首を絞めながらクロエを恨むかのように睨みつけた。
そのざまを見ていたクロエは冷たい言葉を放った。
「苦しいか? そうでしょうね。〈心代わりのアリス〉。懸賞金7万ギル。生まれながらにして魔法の才能は有り、10才にして召喚試験をクリア、眷族を召喚するなどその力技はすぐに認められる。だが、12才に突然、人を殺め逃走。以降、気が狂った少女として二つ名を得た。」
「お”ま”え”は”…」
元の少女らしき美しい声はどこにもない。
呼吸するたびに血を吐く。視界がぼやけていく。クロエ…メスガキが…と声に出すことなく、ぱたりと手が地面に倒れるなり動かなくなった。
「〈ウィッチウィザード〉。クロエ・アルキリア。私は世界を不幸にするお前らを処罰する処刑人だ」
黒敷地(ブラックフィールド)を解除し、会場は元に戻した。真っ暗闇に追われていた空間はどこにもない。真っ青な空がどこまでも続いていた。
「しょ…勝者、クロエ選手!!」
歓声は先ほどと比べて温度差が低いものだった。
それはそうだ。殺戮非道な終わり方だったからだ。
守護像(ガーディアン)を壊さず、直接相手選手を戦闘不能にしたからだ。
会場からはブーイングが飛び交う。
「ひっこめ! 人殺し!」
「帰れ帰れ!」
「神聖な祭りになんてことをしてくれたんだ!?」
観客席からのブーイングの嵐は次の選手の対戦まで止むことはなかった。
クロエは何も言わず、その場から立ち去っていった。
その様子を見ていたラタはクロエにこっそり会いに行ったていた。
その後、アリスが目覚めることはなかったと医者が話しているのを耳にした。クロエの魔法は人を殺すには十分な威力がある。自ら処刑人と称しているあたり、専門家なのだろう。
いずれにせよ、ルノの師匠を追うあたり、危険な存在であることは変わりはない。いずれ、戦うかもしれない。もし、そうなったら……ダメだ。今は考えないことにしよう。まずは、師匠の杖を取り戻した後…考えよう。
クロノは不安の念を払った。
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