第8話
守護像(ガーディアン)は二メートルほどある。土偶でできていると言っていたが、実際に触ってみると固い。固さはコンクリート並だろうか。
「先に守護像(ガーディアン)が壊された方が勝ち、いざ勝負!」
審判の手を降りたとき、試合が開始された。
一瞬の出来事だった。音を置いて転移するかのようにルノ選手の守護像(ガーディアン)の前まで到着した。
「!?」
そのまま蹴りを一発入れる。
守護像(ガーディアン)はびくともしなかった。
(やはり…物理は不可能か)
ならば、と両手を前に突き出し詠唱する。
「風よ雷よ、貫け〈ソニックライトニング〉!」
ビームを発射するかのように手の先から光が放たれた。
まぶしく発光する白く黄色い閃光。雷を弾丸のように丸見込み、それを風の力で発射するその技はまさしく閃光の弾丸と言っても過言ではなかった。
守護像(ガーディアン)に風穴を開けるほどの威力だ。
守護像(ガーディアン)は脆そうだと理解した。
「どうしたルノ選手? 怖くておじ気ついてしまったか?」
余裕もってルノを見下した。
俺様(キルア)の速度についてこれないという散漫だった。
ドヨっと観客席から声が上がった。
あまりにもの速さでお客さんもさぞ驚いているだろうと高をくくる。
もう一発穴を開ければ俺(キルア)の勝ちだと確信していた。
だが、その余裕が命取りになるなど思いもしなかった。
「こっ!? これはなんだああっ!!?」
司会者が思わずマイクで高らかに声を上げた。
キルア選手の守護像(ガーディアン)が崩れてお一ているではないか。キルア選手の攻撃よりも先手を打つかのように崩れる守護像(ガーディアン)。
速度とは関係ない。いったい、キルア選手の守護像(ガーディアン)はなぜ崩れたのか司会者でも審判でも頭が追い付かなかった。
「ウフフフ。勝敗は期したようだな」
観客席に振り返る。
周りの視線が妙にキルア選手の陣地に向けられていることに気づく。審判の顔も向けられていた。
なにがあったのかとキルア選手の守護像(ガーディアン)の方へ向けると、粉々に崩れ落ちた守護像(ガーディアン)の無き姿があった。
「えっ!? えええええ!!?」
音を殺し、陣地へ引き返す。
粉々に崩れ落ちたキルア選手の守護像(ガーディアン)は目も当たれないほど壊れてしまっていた。
「うっ嘘だろ!?? えっ? だって…今さっき…??」
なにが起きたのか頭の理解が追い付かない。
なぜキルア選手の守護像(ガーディアン)が先に崩れているのだろうか? キルア選手が相手の陣地へ殴り込みに行った際にルノ選手は魔法を使った形跡はなかった。
これは…もしかしたら…。キルア選手はルノ選手に振り返り「おまえぇ!! 正々堂々と勝負しろよ! こんな小癪な手を打ってそんなにも優勝したいのかよおお!!」と我ながらここまで取り乱すことはなかったはずだった。
でもおかしいのだ。
魔法なんて発動している素振りはなにひとつなかった。
標的(サークル)張ったわけでも詠唱したわけでもなかった。これは、明らかに第三者の妨害の可能性が頭の中に埋め尽くされていた。
「審判! こいつ卑怯だぞ! 第三者の手を使って俺の守護像(ガーディアン)をぶっ壊しやがった! 魔法を使った素振りも見せていない。これは明らかに魔法使いに対しての冒涜だ!」
ルノを指さし、これは魔法使いにとって使ってはならない手法だと審判に訴えた。審判も魔法を使った素振りを見せていなかったルノ選手に怪しいと睨みつける。
『怪しいって…時を止めての攻撃なんだから。詠唱とかサークルとかないのにね』
クロノがクスクスと笑みを浮かべ、取り乱すキルア選手を見下していた。
そんなことも理解できないド低能がとも罵るかのようにその眼は語っていた。
「審判!」
「えー…いまの勝負はー…」
審判も懸命な判断が下せない。
ビデオ確認してもルノ選手の魔法を使った形跡はどこにもない。キルア選手の守護像(ガーディアン)を壊される瞬間に閃光のようなものが走っていることだけはビデオに映されていた。
審判は下す。結論を。
「勝者ルノ選手!」
ワーワーと観客席から拍手と指笛が響く。
キルア選手が納得いっていない様子だった。
「ふざけるなよ。こんなの…魔法じゃねぇ」
悔しそうに会場から去っていった。
時魔法は相手の視線にも視界にも入らない。0秒と0.1秒以下の狭間の魔法。相手の理解が得られることはない。
頭の中でわかり切っていることだ。
けど、初めてだった。時魔法を知らない人から罵るかのように放った一撃はルノの心を揺さぶるには十分な威力だった。
『ルノ…』
キルア選手とは違い、ルノ選手も肩に力を落としていた。
尊いものだ。
今の試合を説明するのは難しい。
ルノはあらかじめ未来視(ビジョン)で相手の行動パターンを読んでいた。時魔法で時間空間を停止させ、その隙に相手の守護像(ガーディアン)をラタから借りていた魔法剣で切り刻んだ。
魔法剣とは魔法で作られた剣のことで、武器ながら魔法も使えるという特性を持っている。また属性が付与されており、その武器で攻撃するとその属性の効果が発動する。
時を止めた守護像(ガーディアン)は脆い。魔法の抵抗は一切なく、切った感触はプリンのようだった。
会場の外に剣を捨て、自分の正位置に戻り、時間を正常に動かした。
時が動くと、キルア選手は文字通りルノの守護像(ガーディアン)を壊しに来た。遅すぎる攻撃だった。
自分の速さにうぬぼれ、速度を上げれば一瞬で片付くだろうとタカをくくっていた。その結果が、あのざまだ。もし、守護像(ガーディアン)のガードを高めていたら、勝てなかったのかもしれない。
相手に属性を知られることなく、確実に壊すことができる。それがルノに与えられた時魔法。そして、時の妖精クロノ・スティアの力によるもの。
観客席で見ていたドーン選手はこう思っていた。
「これはすげぇ。あっという間じゃないか!? スピード関係なく破壊する魔法。破壊魔法かそれとも闇魔法か圧魔法か…。いずれにせよ、ガードを強化しないと勝てんな…」
アリス選手はただフフフと笑っているだけだ。
「これは…なんて恐ろしい。放った形跡はある。だが、位置を把握し的確に攻撃した。熟練の魔法使いでもそんな手練れはいない。恐ろしい…でも嬉しい。俺は誇りに思うぞルノ」
高らかに見物するラタ。
圧倒的すぎる力の差は選手たちを震えさせる。
相手の魔法系統が知らない今、勝つ見込みは薄い状況だ。
「次の対戦相手はアリス選手 VS クロエ選手!」
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