第3話
それから四年後、魔法使いとして職を得るため魔法試験の会場に向かっていた。
年に一度だけ師匠もとい学校で二年以上学んだものが受けられる。
この試験を突破出来たら晴れて魔法使いとして名乗ることも認められることもできるようになる。
ルノが旅立ったのを見届けたあと、オーガスティンは自室のテーブルの上にあった歴史書に手を取った。
この世界が剣の時代から魔法の時代へと移り変わった時代が書かれていた。
――数百年前に遡る。
まだ大地と天界、冥界に分かれていた時代。
この世界がまだ邪神と呼ばれる大悪党が人々の恐怖心として存在していたときだった。
邪神は体系は人そのもので二足歩行。手足は蛇のように長く、手の先はまるで龍の手のように鋭いかぎ爪、瞳は相手を屈服させるほど恐ろしい瞳、悪魔のような顔で直視することができないほど歪んでいた。
山を越えるほどの大きさ、人なんて蟻のような存在だった。踏みつければ何千と死なせることができるほどその存在の違いは架空の世界でもあまり知られていないものだった。
「我々には勝つ見込みはないのか…」
人々は震えあがっていた。
剣や槍では到底届かないし、弓矢ではあの強固な皮膚を貫けない。大砲でも砂粒のようにもみ消されてしまう。
戦えない。人類はあの化け物を倒すことは不可能だと思われていた。
ある時、邪神と引けを取らない戦いぶりで戦場を騒がせた勇士たちを唯一の息の頃が証明していた。
その者は唯一の生き残りで、五人の最後を見届けた最後の人でもあった。
五人は突如と戦場に現れ、邪神と戦い、勝利を収めた。
彼らは武器というものを使わず、邪神と同じ力〈魔法〉で戦っていた。
彼らのそばにいるかのように使い魔(後に妖精)を従え、邪神の攻防に一役買っているのを何度も見ていた。
その戦いぶりはいつの時代でも本に描かれるほど歴史に大きな亀裂を与えた物語として広まった。
その勇士たちはどうなったのかはわからない。
ただ、言えるのは今の時代を作ったのは彼らのおかげだということだ。
妖精を召喚し、術士に憑依させることで、その繁栄は邪神がいたころよりも豊かになった。妖精の恩恵は高く、人々は妖精を親しみ、魔法を進化させていった。
現在――歴史書を閉じ、深く息を吐いた。
オーガスティンは椅子に腰かけると、飾られた一本の杖を懐かしそうに見つめ、かつて戦った英雄の日々を思い浮かべていた。
かつて共に戦った十七人の英雄たち。彼らは後に〈妖精傭兵団(フェアリー・ジーニアス)〉と呼ばれるようになったのだが、当時の写真はなく、仲間もどこへ行ったのかもわからなくなった。
オーガスティンの記憶だけに残された彼らの思い出は、飾られた杖とともにある。そして、その杖が英雄として名を君臨させた人生で誰にも譲れない代物でもあった。
***
魔法使いと名乗れるのは試験に合格した者にだけ名乗れ、世界から認められる証を受け取れる。
ギルドの申請でお金をもらったり、働いたり、ある程度の階級しか入れなかった図書館や装備屋などを利用することができるようになる。
魔法を極めるべく大学へ進学することも許される。
ルノは魔法大学を進学することも夢見ていたが、親の代わりに育ててくれた師匠へ恩返しするため試験に合格することから始めようと考えていた。
魔法試験は各国で行われ、毎年魔法使いが誕生している。年齢は10才以上から合格するまで何度も受けることができる。男女・老若・種族関係なく受けることができる。
ルノが受ける予定の試験会場は済んでいる町から一つ山を越えた先にあった。そこは渓に囲まれた街で、国からも”国”扱いで登録されている場所だった。
人口は百数人程度で、ダンジョンや道具屋、装備屋も忠実にそろえてある。
この町はダンジョンと試験会場が有名で、世界ヵ国の魔法使いがダンジョン攻略のためにこの町まで訪れていた。
ルノもこのダンジョンに挑む気満々だったが、魔法使いでなければ入ることができないので、師匠に恩を返して許しを得てから挑戦する気だった。
「よう、じいさん!」
試験会場の受付嬢に参加票を提出していたとき、不用意に後ろから声をかけられた。振り返ると自分よりも年上の三人の男女がルノを見下すかのように笑っていた。
「爺さん、あんたじゃ、合格は到底無理だぜ! さっさと帰って昼寝でもしていたら?」
げらげらと後ろの二人組が笑っていた。
「君たちも受けに来たんですね。では、ぼくと正々堂々と戦えるのですね」
にっこりと口角をとがらせていた。
まるで戦いたい衝動を抑えるかのようにルノは笑っていたようにも見えた。
「…そのほえ面、後で後悔してやるよ」
先頭切っていた男は二人組に「いくぞ」と脅し、ルノから去っていった。
二人はしきりにリーダー格の男に話しかけていた。
参加票を提出後、試験会場へ向かっていた。
受付嬢の話によれば、試験は三段階に分けられ、それぞれ合格次第で、魔法使いに与えられる称号が異なるようだ。
まず、試験は筆記・暗記・実技の三段階に分けられ、一定数の合格点に達しなければ合格することはできない。
どれも難解で、すべて合格できたのは年に数人程度だと言われている。
筆記試験。インクがないペンを使って三枚ほどの用紙に書きだす問題。内容は十七カ国内から四カ国で書かれた問題書を受け取り、その内容から四カ国以内の言語で書かなくてはならないというものだ。
よっぽどの歴史好きか国語好きなでなければ到底頭に収まり切れない難問だ。
試験会場でひときわ目立つ人物がいた。
育ちがよい黒髪の美少年と白銀の髪をした少年の二人だ。
教室に入ってからしきりに女子たちが噂をしていた。
育ちが良い黒髪の美少年の名はロン・アーバトニー。この国の長の息子で大人でも顔負けするほどの天才児。
遠くからやってくる魔法使いたちが一目見ようと来ているのもうなずけるライバルだ。
「すげぇ…ロン・アーバトニーだ。」
「知っている。あいつ、6才にしてダンジョンをクリアした最少年だってな」
「そんな奴に俺ら勝てる見込みねぇーよ。」
「きゃあ、ロン様だわ! こっちみてー」
「ロン様、ああ、なんて美しいの。近くでニッコリ笑ってほしいわ」
もう一人は白銀の髪をした少年ルノ・クロノア。
育ちはロンと比べれば明らかに劣る。服装はどうも田舎臭い。エリートと貧乏と比べられるほど天と地が違う二人の存在が周りよりも大きな存在として光らせていた。
「なんて貧乏くさいんだ。それにあの髪、まるで老人みたいだ」
「あいつ、さっきロンと会話していた奴だぞ。あのロンに目を付けられるなんてどんなすごい奴なんだ?」
「ロン様にとんだ失礼なことを言った生意気なガキ」
「ロン様と会話しただけでも足がすくめちゃうのに。あの少年はどうして強気でいられるのかしら?」
二人の存在はすでに会場の空気をかき混ぜていた。
試験官でさえも二人の存在は大きく見える。どちらかが全合格してもおかしくはないと胸が躍る不思議な感覚に包まれていた。
「筆記試験終了。問題用紙は裏に隠し、すぐに教室から出て行ってください」
筆記試験が終わり、教室から出た。
ロンとルノだけ曇り一つ変わらない表情で、出て行ったのを他の受験生たちは彼らには勝てないと心のどこかで崩れる音がしていた。
一時間してから、合格発表が掲示板に載せられた。
受験生は1079人。そのうち合格したのは48人だけだった。
ルノの成績は上から二番目。100点満点中93点だった。
問題は全部で100問。1問につき1点。7点ほど間違えたといわけだ。
一位はロンだった。100点満点中94点。1点差だった。
『すごいわ! 合格するなんて、きっと師匠は喜ぶわね』
クロノは拍手していたが、ルノは嬉しそうには見えなかった。
たった1点差で2位という烙印を押されたからだ。ロンに対する勝負心の火が付いたのはこれが始まりとなった。
暗記。課題が出され、25項目の詩と詠唱が書かれた紙が手渡される。制限時間は一時間。すべてを読み終え、紙を焼き捨てたとき試験開始。紙の内容はそれぞれ受験者によって異なる。同じものもあれば違うものもある。わずかに違う文章もある。不正がないようにできている。
個室に招き、紙を焼き捨て開始する。
20項目のうち、各10点ずつ加算される。一字一句間違うことなく言えば加算だが、間違えば減算される。
最大100点以上取れば合格。120点以上取れば、実技以外の筆記試験での点数が20点加算される仕組みだ。この試験のみ最大200点満点になっている。
試験終了後、すぐに報告が届いた。
『すごいわ! 暗記も満点なんて、きっと師匠は震撼(しんかん)するわね』
クロノは飛び跳ねるほど嬉しそうに喜んでいた。
ルノも連れられクロノとハイタッチする。
成績表では1位だった。200点満点中200点。3位のロンは120点だった。あのロンに勝つことができたことをガッツポーズした。
気になる2位だが、エミリア・クローバーとなっていた。知らない子だ。きっとどこかですれ違っているかもしれない。
最後の試験、実技のよる試験だ。
ルールは簡単、相手が「待ってくれ」と言うか、動けなくなるかのいずれかで合格する。
対戦相手はロン自身だった。以外にも意外だった。
本来なら、1位と2位が争うことはない。去年もその前の年もそうだった。この組み合わせは明らかに何者かが手を回したものだった。
「俺の親父がさ、1位をとってこないと出て行けと言うんだ…」
ロンは初めて、歯を苦しばるほどルノを睨みつけていた。今まで三下だと思っていた連中が初めて自分よりも超えて目立って登場した。ロンの勝ち気誇っていた気持ちはルノの登場により、すべてをひっくり返してしまった。
「俺は再び1位をとる。お前に勝って、俺は再び1位になるんだ!」
勝つことを宣言し、再び1位をとること強気で言い放った。
勝つことは勝負ごとにおいて別にいいと思う。けど、それを親父とか第三者が出てくるものではないと思う。
ルノは思っていた。
ロンに勝とうとする気持ちはない。すごく気持ちよい戦い方で終わらせようと決めていたのだから。
「一対一の勝負です。先に『まいった』といった方は負けです。この勝負では杖や武器、道具の使用は禁止。二人とも準備はいいかい?」
二人とも頷いた。
「では勝負、はじめぇー!!」
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