第2話

 召喚の儀式。

 この世界ではみんな何かしらの妖精たちを引き連れている。本人しか見えず、他者からは見えない。その妖精は、自らの力を底上げしてくれる。

 人が成長するにあたって、妖精も強くなる。


 強力な魔法や技、すべては妖精の力あってこそ、成り立っていた。


「いいか、妖精はこの世界において最も強くなるひとつの存在だ。妖精は一生に一度しか召喚が許されていない。二種類以上召喚することは禁じられている。妖精はよっぽど嫉妬深く、喧嘩するなど人間の男女関係よりも激しい。小さくても弱くても、その本人次第で変わる。俺は【時の女神】が憑いている。時の加護を受け、相手の行動を見抜き、先の未来を知る。時を使い、時間の流れを止め、転移ごとく相手のそばで詰め寄る。お前はどんな妖精が憑くのかはわからない。ただ、どんな妖精が憑こうか、俺はお前を決して責めはしない」


 石畳みの上に魔法陣が描かれている。数年の年月をかけて作られたお特製の魔法陣だ。壁や天井にも魔法陣が描かれ、その規模が大変なものであると見受けられる。


「召喚に必要なものは己の血。魔法陣の中心に血を注ぐことで成功する」


 血は聖なる水。この世界では血がマナとして考えられ、魔法を使うとき、血を使う。血が減るほど魔法は弱くなり、自らの命を縮める要因にもなる。


 ルノは左腕を指し伸ばし、右手でナイフで切った。左手首から流れる血が魔法陣の上に乗る。すると、緑色に光り輝いた。魔法陣がすべて共鳴するかのように光輝いた。


『我は時の者。其方の血に引き寄せられた。我は汝、汝は我。召喚士よ、我と契約せよ。我は力を貸し、汝は血を差し出せ。』


 蜃気楼のような幻影が見える。姿ははっきりとしない。まるで煙のようだ。虹色に光り輝くそれは、明らかにルノにしか見えていなかった。


「師匠、妖精だと思いますが、煙に見えます。どうすればいいでしょうか?」


「そう見えるのなら、まだ真の姿は見せていない。ルノ、君次第だ。血を流し、その姿をさらすように問え、そしてその妖精の言葉通り、契約せよ」


「わかった師匠」


「汝、其方と契約を示す。この血を捧げ、其方と契約を結ぶことを誓う」


 煙が揺らいだ。みるみる姿は見えていく。

 その姿は少女の姿をしている。緑色の髪に銀の髪留めをしている。布に巻かれた体は天女のようだ。


『言葉をなせ、我は血を結び』

「我は血を結び」

『新たな命へと再生する』

「新たな命へと再生する」

『我の名は――』

「我の名は――」

『【時の妖精クロノ・スティア】』

「我はルノ。クロノ・スティアよ、共にゆこう」


 左手首に模様が浮かび上がった。妖精の尻尾と懐中時計の模様が描かれた。


 光っていた魔法陣は消え去り、煙だった妖精は容姿を整え、すぐ横に座りついた。


『これからよろしくね。ルノ』


 可愛らしい声。

 子供のような無邪気感がある。緑色のロングヘア。時計の模様が描かれた瞳。やや白い肌。白いワンピース。素足。


「これからもよろしく『クロノ・スティア』」

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