ウィッチウィザード

にぃつな

第一章 魔法使いの始まり

第1話

 戦火の中、逃れるかのように小舟に赤子が乗せられていた。

 赤子の鳴き声が聞こえる。親を見失い、自分を抱いてくれる優しい手のひらを求めて、赤子は声が枯れるまで泣き叫んでいた。


 その声を聴いた一人の若い男がいた。彼の名はオーガスティン。幾多の戦争に勝ち続け、勝利へと導いてきた男だ。

 草むらのそばから鳴き声が聞こえた。


 戦場で哀れな兵士たちの悲願する声は幾度と聞き、その度に殺してきた。オーガスティンにとって、人間とはくだらない生き物だと考えていた。


 数人の兵士とともに戦争が終結し、帰郷するところ、赤子と出会った。

 ぼろ布のような赤く湿った布を巻いた赤子は、世にも珍しい銀色の髪をしていた。


 兵士から「こんなところに赤子を、オーガスティンこの子も天へと導くのでしょう」とオーガスティンがいままでやってきたことを指すように兵士は自ら剣を抜き、オーガスティンに手渡した。


 オーガスティンの剣は戦争中によって真っ二つに折れてしまい、使い物にならなくなっていた。


 オーガスティンは兵士から受け取った剣を睨み、地面へ抛り捨てた。


「オーガスティン!?」


「いらん! 俺はこの子を育てる」


「本気ですか!?」


「この子は俺が自ら命を積んできた民たちの集まりだ。俺は今までの罪を悔い、この子を育てるつもりだ。俺は、これまでやってきた罪は深く、地獄の業火のなかでも永遠とくすぶることはないだろう。俺の代わり――いた俺がしてやれなかったことをこの子に託すんだ」


 オーガスティンは赤子を拾い、大事そうに抱えた。


「このことは秘密にしておけ。俺は、この戦争で命を絶った。この世の腐った世界にうんざりして身を投げたのだ。剣は俺の人生の始まりで終わりだ。剣が折れたのも俺の人生を終止せよという合図なのだ。兵士よ、俺の首は戦火の中で灰となったと言え。俺は、遠い田舎でこの子を育てる。」


 兵士はつばを飲み込み、オーガスティンの背中をただ見守ることしかできなかった。

 オーガスティンは幾度となる戦火の中、一度も怪我を負ったことがなかった。相手の動きを手のひらの上で踊ら枷るかのように攻撃が当たらない。

 そんなオーガスティンのそばにいれば自分たちは死ぬことはない。そう考えていた兵士たちは、地面に捨てた剣を拾い、オーガスティンに向かって突き刺した。


「お許しください! 我らはこのまま帰郷すればきっと殺されます。反逆罪としてこの命も終止符されます。我らと共にご帰還をお願いいたします。」


 兵士の剣をひらりと身をかわす。まるでどこから攻撃が来るのかをすでに見切っている様子だった。


「我はずっと運命のレールに引きずられてきた。今日この日、俺は解放されると信じている。けど、結局は運命の腕に踊っているに過ぎない」


 兵士から剣を奪い取り、兵士の首をはねた。


「許せ! 俺はここで死ぬわけにはいかない。お前たちも生きていてほしいと願っていたが、俺の考えは甘かったようだ」


 心の底の奥で嘆き悲しんだ。

 俺のそばから離れることなくずっとついてきてくれた兵士たちがみな、剣を抜き襲ってきたのだ。


 信じていた仲間たちの裏切り、オーガスティンは嘆き悲しみながら剣で仲間の兵士たちを次々と殺していった。


 曇った空から雨が振り立つ。

 くすぶる火が消し飛ぶほど壮大な雨は血まみれとなった大地を洗い流す。


 オーガスティンは剣を抛り捨て、赤子を胸にこの場所から立ち去った。




 それから十年後、オーガスティンが死んだと報じられてから戦争の英雄オーガスティンは絵画の中でしか語らえなくなった。オーガスティンの存在は敵国にとって非常に腸をえぐるほど憎き敵だった。


 平和になった世の中で、オーガスティンの名を挙げる者は容赦なく罵倒され無実の罪で幽閉されるなどオーガスティンの評判は戦争と比になって落ちていった。



 遠く離れた山々に囲まれた小さな集落。

 そこにオーガスティンに似た黒髪の青年が慎まなく生活していた。

 銀色の髪をした少年を見守り、失った右腕に見つめながら、過去のことを思い浮かべていた。


「師匠!」


 オーガスティンは顔を挙げた。

 師匠と呼ぶ銀色の髪をした少年が呼んでいる。


「ルノ、見事だぞ」


 木で作られた人形すべてが切り刻まれていた。

 オーガスティンの技を受け継ぎ、その剣で過去の自分と投影するかのように敵を薙ぎ払えていた。


「師匠、俺もっと強くなる! だから、魔法を教えて」

「わかった。俺から教える剣術は見事合格したからな。次は魔法についてだ――」


 ルノは心から喜んだ。嬉しいあまりぴょんぴょん跳ねる。

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