第5話 夕紅とレモン味

 夕紅男とレモン味女



 ここは噴水公園、時刻はみんな晩ごはんを食べ始める頃。噴水の音だけがやけに響いている。1人ギターを背負った男が街灯の下にいた。男がこの時間もここにいるのは初めてのことだ。なんとなく空を見上げた様子だったが、息を飲む。


 ここはとある居酒屋、同時刻。女は搾りたてレモンサワーを飲み干す。


「すいませーん!梅酒をロックで」


「はいよ!」



 カウンターには唐揚げと枝豆と卵焼きとポテトサラダとお通しの小鉢がある。全て1人分だ。女は1人静かにお酒を飲む。突然、窓際の客が騒ぎ出す。空が綺麗だ!と言い出し、本当満月だね、今日はお月見だったね、満点の星空だ!と口々に話している。外に出て飲んでもいいかなんて話も出始め、眺めに行く他の客もいるくらいだ。店長もふと手を止めた。


 そんな中、女は唐揚げにレモンをかけてパクッと食べ、おいしーと口パクで味わう。彼女は景色より、目の前の酒とツマミで頭がいっぱいのようだ。



 みんなが空を見上げている

 ここから見える景色は

 時の流れで少しずつ

 変わっていく


 変わらぬ景色は

 みんなが空を見上げる姿


 みんなって誰?

 私は一人

 俺は一人


 みんなって誰?

 空を見上げる人がどれだけいようと

 その中で誰かとつながっていようと

 今自分は

 自分は今

 一人だ


 やっと一人になれた

 みんなと違って何が悪い

 せいせいする

 これでいい

 聞こえないふりをする


 ついに一人になった

 みんな悪口を言ってる

 ふっきれない

 なんとかしたい

 聞こえなくなった

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