第4話 夕方くれないレモンサワー
夕方はまだ出してくれないレモンサワー
風だ。風が強い。引っこしの片付けも終わり外に出た。駅前に行く気だったけどやめた。髪がボサボサになったから。そうだ、飲もう。さっき五時の鐘が聞こえたし、そろそろ飲めるんじゃないかなあ。ブラブラして見つけた居酒屋はまだ準備中。少しどこかで時間を潰そうと噴水公園にたどり着いた。そこには綺麗な曲が流れていて、黒ずくめの男がギターを鳴らしていた。
また風が吹く。寒い。もう秋が近くなってきた。噴水から離れた端っこのベンチでスマホをいじる。風でうっとおしい髪を切りに行こう。この辺の美容室調べなくちゃ。そういやここでも変わらずあの鐘が鳴るんだなあ。名前も知らない童謡。なぜか帰らなくちゃと思わせる、不思議な魔力。エコーがかかって耳に残る。
大丈夫、まだ帰らない。
てか来たばっかりだし。
ふと違う曲になる。あ、この曲さっき聞こえた五時の鐘だ。弦を弾いてこんな風に曲になるなんてすごいなあ。純粋にギターを弾ける彼を尊敬してしまう。
曲名が知りたくて検索してみる。イヤホンを指して探す。これじゃない、ああこれこれ。私は曲名と歌詞をチラッと見てまたイヤホンを外す。ギターがゆっくりと最後の音を鳴らした。拍手するのもなあ…でも、なんて悩んでいたら目が合った。ついお辞儀をした。彼もお辞儀をする。
大丈夫、私も彼もきっとまだまだこれからだ。
日も落ちて寒く暗くなった夕闇に、溶けて紛れて彼は消えた。
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