第2話 優雅になれないレモン味

 優雅になれない女とレモン味のケーキ


 ここは噴水公園、時刻はもうすぐおやつの時間。最近人気のタピオカやソフトクリーム屋が時々やってくる。その公園のそばにあるカフェ。たくさんの子どもが遊ぶ声がかすかに聞こえてくる。


 一人の女性がもうすぐ期間終了のレモンケーキを頼んだ。テーブルには充電器が差されたスマホがいた。画面には『いまどこ』と短いメッセージが出ている。女性はすぐ返事をするつもりはないようだ。画面を暗くする。


 窓から公園で遊ぶ子どもたちを眺めているうちに、女性のもとにレモンケーキが運ばれてきた。嬉しそうな笑顔で見つめ、頬張る。何口か食べてはコーヒーを飲む。女性は一人、黙々と食べ進めケーキはあっという間になくなっていく。酸っぱくなく、甘いケーキだった。でも甘過ぎない上品な味。半分ほど食べ、はっとする女性。



「撮ればよかった」



 小さい声でそうつぶやくと真っ暗な画面のスマホを手に取り、もう一度ケーキを見る。好きなように食べていたケーキは形も崩れ、とても写真に収めるようなものでなくなっていた。写真は撮らず、先程よりゆっくりと、まるで別れを惜しむように食べ始めた。



 誰かが食べている笑顔

 ここから見える景色は

 時の流れで少しずつ

 変わっていく


 変わらぬ景色は

 誰かが食べている笑顔


 どこか落ち着いた店で

 とてもゆっくりとした

 時間を過ごしてみたい

 ブラックコーヒーでも

 ケーキを食べればいい

 明日は仕事があるのだ

 今日はゆっくりしよう

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