夕紅とレモン味
新吉
第1話 夕紅トレモロ
夕紅の噴水とトレモロ男
ここは噴水公園、時刻は夕方になろうとしている。まだ日差しも残り子どもたちも残っている。そこへ1人の男がギターを持ってやってきた。ジーンズにTシャツ姿、黒い帽子をかぶっている。太陽を背に噴水の前に腰かけた。
真ん中に大きな噴水が一つある。夏には人が集まり冬には人がいなくなり、つららができる。その大きな噴水の他にじゃぶじゃぶ噴水と呼ばれる夏限定の子ども用の噴水がある。地面の穴からランダムに水が噴き出し、暑い日は子どもたちがじゃぶじゃぶ楽しそうに遊ぶ。男は1人ギターを鳴らす。それがここ最近の公園の日常だった。
低音は親指で、残りの三指で高音の同じ音を弾く。まるで何人かで弾いてるみたいな音が出るトレモロ奏法。噴水と沈みだした夕陽が幻想的な雰囲気を作り出す。
ほどなくして母親たちが子どもの手を引き、帰り出す。男はまだギターを鳴らしている。ふと鐘が鳴り出す。毎日決まった時間に鳴る童謡だ。男は急に体を揺らし、そのうちギターを止めた。毎日決まって鳴り出す鐘も止んだ。静かにギターをしまい帽子を被りなおして、男はどこかへ去っていった。
みんなが帰る後ろ姿
ここから見える景色は
時の流れで少しずつ
変わっていく
変わらぬ景色は
みんなが帰る後ろ姿
みんなおうちにかえらなきゃ
まっかなゆうひがかえるから
まっくらになってしまうから
なにもみえなくなってしまう
あしたになったらまたあおう
きょうはおわかれまたあした
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