第2話

「あの、私接客苦手で」

「強制な。人手不足なんだよ。

 よし、ついてこい」


 中性的な人はそう言うと、2階への階段の方へ歩いて行く。私も慌ててついていく。

 いやぁさ、確かにあなたと私以外人いませんけど!!

 ……ん? 人がいない??


「お客さんはいないんですか?」

「あ? ……あぁ、今は転生期じゃないからな。詳しくは部屋で説明する」


 階段を上り少しだけ歩くと、前を歩いていた中性的な人が扉の前で停止した。

 ここがアンタの部屋な、と言われ、開けてくれた扉の中へ入る。6畳くらいだろうか。

 茶色がベースの個室、家具は少し古いデスクとベッドに赤のラグ、その他諸々。小さな窓からはいかにも雲!! という床をしている薄暗い空間が見える。きっと彼処が天界なのだろう。

 部屋には家具の他に花もあり、とても住みやすそうだ。

 どっかに座れと言われたので、ラグの上に体育座りした。中性的な人も私の目線の先に座った。


「私はそう。想像の想。性別は……女、かな」

「あ、やっぱり女性なんですね」

「元々天界に住んでる生物は性別という概念があまりないけどな」


 元々天界に住んでる生物は、という事は、想さんはずっとここを営んでいるのだろう。

 転生する人が最後に訪れて食べ物を食す、茶色いレストランを。


「で、さっきアンタ……果夏かな、だっけ。客がいないって言ってたじゃん」

「はい」

「それは、今絶対に客が来ない時期だから」


 またもや長い長い説明が始まったので、今回は要約する。


 毎日毎日誰かが転生する訳ではなく、転生する時期というのがあるのだそう。

 その期間を想さんは勝手に『転生期』と呼んでいる。

 それは1ヶ月に10日間程あり、その時は1日に2人来店するらしい。

 その人達を、入り口に代わる代わる現れるウェイトレスとシェフの彼女で接客し、さっき長々と説明された事をするという。

 でも今は転生期ではないので、特にする事もなく暇、という事だ。


「っていう事で、自由に本読んでいいし紙に何か描いても良いから。次の転生期から仕事な」

「あの!! 次の転生期っていうのはいつなんですか??」

「さあ? あーでも、この20夜くらい暇続いてるから明日からかもしれない」

「そんな急に……」

「じゃーな」


 そんな急に言われてもできる訳がない、と言おうとしたが、面倒くさくなるのを避けたのだろうか、バタンと扉を閉められた。貴方は短時間で2回も話しまくったくせに。

 ……本読んで良いとか言われても、特別読書家という訳でもないし。というか小説はあまり読まないのだ。

 適当にクローゼットを開き(中には想さんが着ていたエプロンの色違いとパジャマがあった)、やっぱり適当にパジャマに着替えてベッドに寝転んだ。



 ……ドンドン!! ドンドンドン!!

「おい果夏、いつまで寝てんだ!! 転生期来たんだよ手伝え!!」

「……マジですかい」





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