77 僕は詰まらない人間になりたい。

 何の目的もない文章を書きたいと思った。

 手段として文字は並んでいるけど、それがどこにも繋がらないし、結局なにを言いたいの? って首を傾げる文章。

 そういうものを書きたい。


 エッセイを書いたり、小説や日記を書いていると、人に認められたい、価値があると思われたいって気持ちが前提にあることに気づく。

 客観的に見て、そんな気持ちになって書く文章はエッセイとか小説とか関係なく三流以下って気がする。

 いや、それが悪いと言いたい訳でもない。


 僕は誰かに認められたいし、価値があると思われたい。

 そういう小物感ある欲求は僕の底の方にある。

 けど、年末年始に実家に帰って、2022年になって仕事が始まって、さてエッセイを書こうとパソコンの前に座って思うのは、「もう疲れた」だった。


 あらゆることに疲れた。

 年末年始のドタバタした色々、コロナのあれこれ、仕事の立ち位置、理想像としての僕……。

 別に何かに不満がある訳ではない。

 冷静に考えるまでもなく僕は恵まれてる。


 家族も健康で、年始に連絡する友達もいて、仕事に大きな不満がある訳でもないし、ネットでこうして好き勝手に書く場もあって、この文章を読んでくれる人もいる。

 幸せじゃんと思う。


 同時に、だからって疲れないって話でもなく、日常的な波として今ちょっと底の方に落ちている。

 疲れとは一時的なものなので、来週には元気になっているだろうけど、今は無理に普段通りな感じで書かず、何の目的もなく手段としての文字を並べていきたい。


 って書いていることが普段っぽい気もしてくる。

 どうしたものか。

 いや、本来だったら、この辺で引用文とかを引っ張ってきて、あーだこーだって言った気になる訳だけど、それを堪えているから大丈夫。

 そういうことで良いのだろうか?


 うーむ。

 僕のエッセイってやたら、あれこれ引用したがるけど、あれって知識をひけらかしたいって気持ちがあるのだろうか。

 それとも、単純に自分の言葉を信用していないから、他人様の言葉を引っ張ってきて、信憑性があるように見せているのだろうか。

 多分、どっちもなんだろうな。


 そして、そういう外部からの言葉を自分の言葉の羅列の中に組み込むことで、「人に読んでもらっても良いもの」という判断をしているんだろう。

 つまり僕は臆病な人間なんだろうな。


 あと、なんとなく文章を書くことの危機感みたいなものも持っている気がする。

 なんとなくって感覚はちょっと怖い。

 自分の行動全部に論理的な理由をつけて説明できる訳ではないけれど、文章に関しては「なぜ、この文章を書いたのか」を自覚的でいたいとは思う。


 言い換えれば、これって自分が書くものには責任を持ちたいってことなんだろうな。

 では、責任を取るにはどうすれば良いのか?

 とかって書くといつものエッセイなので、今回はそこを避けて進めて行こう。


 最近、僕はこうすべきなんだろうな、って自然と色んなことについて思う部分があって、それは自分の中の欲望としてある、というよりは三十歳になったからとか、小説を書いてきたからとか、大阪に住んでいるからとか、そういう無数の周辺情報や環境によって定められたものな気がしている。


 本当にそうしたいって思ってる?

 時々、内なる僕がそう問いかけてくる。


 そういう時、僕はまぁうん、思ってるよ。だってさ、……と言い訳めいたことを並べる。内なる僕は納得した顔はしないけど、否定もせず去っていく。

 去っていかれると、更に言い訳が募る。


 世の中には、こうすべきってことは歴然としてあって、それをする方が将来の為になりそうって言う刷り込みがまず、あるじゃん。

 うん、まぁそうすべきなんだけど、そういう自分の行動は社会的に規定されているってことも理解しとけよってことなのも分かってる。

 そして、社会に既定された欲望とは別に自分の中にも欲望があるってことも理解はしておくべきだよね、ってそう言いたいって話でオッケー?


 疲れたら疲れたって言うのも欲望かな?

 いや、分かんないけど、そう言いたくなったので、今回のエッセイはこういう感じになっている訳だ。

 自分の欲望を垂れ流すと後から振り返ると恥ずかしくなるので、正直あんまりしたくないんだけど、内にある欲望以外のルールで動くってことは、つまり社会的正しさに殉する量産型な人間でいるって意味でもある。


 それはそれで詰まらない人間だよなと思う。

 けど、社会的正しさに飲み込まれて詰まらない人間になっていくのが、大人ってことでもあるから、それはそれで良いのだろう。

 僕は詰まらない人間になりたい。

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