40 〈鉄の玉座〉と「天皇制」という伝統を終わらせたあと、僕たちは何を思うのだろうか。
2020年4月29日の更新の後から、この「オムレツの中はやわらかい方がおいしいのか?」というエッセイは週に一回の更新をやめて、半年間を不定期連載に切り替えました。
その間にカクヨムでは、倉木さとしさんとの「木曜日の往復書簡集」という互いに質問をして、それに答えていく連載をしていました。
今回、こちらのエッセイを週に一回の更新を復活させるにあたって、往復書簡集の方を不定期連載にしたいと考えています。
完結にすることも考えたのですが、倉木さんの小説ではない文章が掲載できる場所は貴重だとも思うので、面と向かっては照れ臭くて言えない内容を「質問」と称して、今後も言っていきたいと思います。
はい、さらっと書きましたが、「オムレツの中はやわらかい方がおいしいのか?」を今後は週一で更新していきますので、また変わらぬご愛好(?)をよろしくお願い致します。
そして、凄い何かがなければ来年の2021年の5月にまた不定期連載に切り替えたいと考えています。
毎年、そんな感じで半年小説を書いて、半年エッセイを書いて、という生活ができればなと思う次第です。
そんな訳で、今年の五月から十一月の間は小説を書く半年のつもりでいました。
では、さぞ小説がいっぱい書けたのでしょう。
だって、週に一回更新のエッセイがないのだから、その分の空いた時間はあるはずじゃないか?
と尋ねられる方もいらっしゃるかと思います。
いや、ほんと、おっしゃる通りです。
なのですが、まじで何も書けていません。今、僕が書いている小説は「火星と廻る境界線」というものなんですが、まだ前半部分です。
少し「火星と回る境界線」の話をさせてください。
年代が2003年で、この年って火星が地球に大接近した年なんですよね。正確には「2003年8月27日18時51分(日本時間)に、火星が地球へ大接近した」んだそうです。
その時、倉木さんとシェアしている岩田屋町では何が起こっていたか、そんな話を書こうと思った作品です。
初稿が実はあって、カクヨムの最初の頃に一度実は連載していたのですが、技術的な面で納得ができずに非公開に致しました。
その理由は、「火星~」は岩井俊二監督の「リリイ・シュシュのすべて」が根底にあって、その為にレイプとか、売春を描こうと思っていた部分もあったんですが、書いてみると薄っぺらいというか、記号的で、そういうものを安易に書いてしまう自分に対して、なんか違うくね? と思った次第です。
如何に物語だったとしても、踏み越えてはいけないラインはある。少なくとも僕の中には。
ということで「火星~」から離れていたんですが、今年の夏ごろにふと手を入れてみると、面白くなる気がして、一から書き直しを始めたのが現状です。
根底には「リリイ・シュシュのすべて」があるの変わらずですが、今回は「キャプテン・マーベル」も混ざった作品になる予定です。
つまり、女性が世界を救う話です。
女性が世界を救うで言うと、最近僕がハマっている海外ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」はまさに、女性が王になる話でした。
「ゲーム・オブ・スローンズ」には「七王国を征服した証である〈鉄の玉座〉」なるものがあって、それを巡る物語が、メインとなるのだけれど、僕が見ているシーズン7では〈鉄の玉座〉に座っているのも女性で、それを狙う最も大きな戦力を有するのも女王という展開を見せます。
広大なファンタジー小説は基本的に男性がメインの物語が多く紡がれてきました。
「指輪物語」「ナルニア国物語」「ロードス島戦記」etc.
僕はそういうファンタジー小説に心惹かれずに生きてきました。それは何故なんだろう? と思うと同時に、では何故、「ゲーム・オブ・スローンズ」にはここまで惹かれてしまっているのだろう? と考えてみました。
答えは、おそらく男性も女性も平等に描かれているから何だと思います。
王が常に男性でなければならない世界なんてフェアじゃないし、想像力を駆使して物語を紡ぐ人間として安易すぎないだろうか?
そのようなことを頭の片隅で考え続けていて、だから僕が好むファンタジー小説は「アリソン」とか「図書館の魔女」みたいな、強い女性が描かれているものなんです。
ちなみに、僕は最近、阿部和重の「ピストルズ」を読んでいるのですが、これは読んでおかなければならないかな、と思ったきっかけは、阿部和重の以下のような発言にありました。
『 阿部 (『Orga(ni)sm』のラストに)天皇制は終わらせるべきだということがわりとはっきり書かれてあります。
――本書の、驚くべき結末に関する部分ですね。
阿部 その一行に、これまで三部作を通じ天皇制の物語を書いてきた全部を結び付けたかった。以前、高橋源一郎さんが文芸誌の対談で「阿部さんは、日本は女性天皇でいいのではないかと戦略的に書いている」とおっしゃっていましたが、それは誤解です。というのも、『ピストルズ』の物語は菖蒲家の伝統を終わらせるという方向に進んでいるので。 』
このインタビューは阿部和重の神町(じんまち)トリロジーなる三部作『シンセミア』、『ピストルズ』、『Orga(ni)sm[オーガ(ニ)ズム]』が全て刊行された記念になされたものでした。
そして、高橋源一郎が「阿部さんは、日本は女性天皇でいいのではないかと戦略的に書いている」という発言を阿部和重は否定して、「天皇制は終わらせるべきだ」と言う結論を『Orga(ni)sm』にて書いていると言います。
僕はその前作の「ピストルズ」を今、読んでいる訳ですが、高橋源一郎の誤読を一回挟むと、女性天皇を誕生させる為の物語のようで、天皇制を終わらせるべき物語になっている。
言われてみれば、なるほど、そういうことかと納得できる内容です。下巻の中盤辺りに差し掛かった僕からすると、高橋源一郎がなぜ、そのように誤読したのかも分かります。
何故なら、「菖蒲家の伝統を終わらせるという方向に進んでいる」ように読めて、それでも生き残ってしまうような予感が伝わってくる内容になっているからです。
本当に天皇制を終わらせる、あるいは、「菖蒲家の伝統を終わらせる」のであれば『ピストルズ』という物語自体が成立してはいけない、という構造になっているんです。
話があっちこっちへと行ってしまいましたので、まとめたいと思います。
僕はまだ「ゲーム・オブ・スローンズ」を最後まで見ていません。
ただ、このまま進めば高橋源一郎の誤読である「女性天皇(女王)」を誕生させる物語になってしまうので、阿部和重が書こうとした「伝統を終わらせる」に通じる「七王国を征服した証である〈鉄の玉座〉」を壊すような物語であれば良いなと思います。
とはいえ、伝統を終わらせて、王座を壊した後の世界が、どのようなものなのか僕には分かりません。それが必ずしも良いものなのか、ということについても。
分からないから、考えることをやめない。
そういうスタンスで今後も生きていきたいと思います。
エッセイについて連載が復活しますが、相変わらず結論めいたことを書かずに終わることも多いですね。そんなエッセイをよろしければ、今後ともよろしくお願い致します。
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