第11話
「ねぇえ?明日、あのカルヴァン家のお嬢様がこちらに来てくださるんですって?」
「そうらしいな。だが、まだ正式な婚約が決まったわけじゃない。大人しくしてくれよ?」
「やぁねぇ。この私がぼろを出すわけないじゃない」
赤い唇を妖艶に舐めながら、女が男の顎を指で撫でる。
「でも、何しにくるのかしら」
「無駄なあがきをしに来るんだろう。今更、あの額をどうにか出来るわけがないだろう?」
「でも、逃げられちゃうかもしれないわよ?」
「だから、逃げられない様に、すればいい。折角こちらにいらしてくださるんだ。こちらも、歓迎してやらねば」
「あら、悪い顔しちゃって」
くすくすと笑いながら女は手元にあるグラスを傾ける。
琥珀色の飲み物の中には、宝石のような輝きを持つ綺麗な石が光輝いている。
女はその石をカリッと噛むと味わうように舌で転がせ嚥下する。
「随分、慣れてきたね?」
男はそう言うと、自分も側にある女の飲み物に入っていた石よりは更に大きな塊を口に加えカリッと噛み砕くと、女の唇へと顔を近づける。
男の口に加えた石を、女が舌でからめ捕り嚥下するとそのまま男と唾液を絡ませた。
ねっとりとした糸が離れた唇からこぼれ落ちた。
******************
ゼルセールの屋敷は想像していたよりも大きく、敷地もそれなりに広かった。
魔石で儲けた金で買ったのだろうか。
ガルパン鉱石で出来た真新しい屋敷が俺たちを出向かえる。
勿論、本人が出迎えたわけではない。
「護衛も、メイドも沢山いますね」
俺はグランに囁く。
怪しい魔術が行われている屋敷にも見えない。
そればかりか、近隣では若い者たちがかどかわしにあっているというのに、よくこの屋敷にこれだけの護衛やメイドが働いているのかと驚く。
彼らの魔石の色や、表情からして何も知らないわけでは無いとは思うが、それにしても多い。
「操られているのか、操られている事も知らずにいるのか。それとも金で首が回らなくなって身を捧げているのか。何にせよ、行くぞ」
俺は胸にある銀時計の場所を無意識に触りながら、屋敷を見渡すとグランの横に並んだ。
「ようこそ、お越しくださいました。歓迎いたします」
応接室に通されると、前にみた写真そのままのゼルセールが俺たちを出迎えた。
写真で見るより、さらに衰え、腹の肉がさらに下に下がっているように見える。
子悪党というよりは、醜悪さが顔ににじみ出ている。
グランの顔を見た瞬間、その膨らんだ顔にうずもれていそうな目を見張るとゼルセールは一層の笑みを浮かべながら立ち上がる。
グランを上から下まで舐めまわす様に眺めると、にたりと卑猥な笑みを浮かべた。
握手を求めてきたが、護衛の俺がグランの前に立つ。
誰が触らせると思っているんだ。
「歓迎、痛み入ります、ゼルセール様。私は、お嬢様の護衛を申し付かっております、護衛のジルと申します。まさか、婚約前のお嬢さまに紳士であられますゼルセール様が手を出すとは思えないのですが。旦那様が、心配性でして」
案に手をだすなよ殺すぞと脅しを更にかけようとしたところ、グランが俺の後ろからさっと前にでると、まるで貴族に向かって挨拶をするような綺麗なお辞儀をした。
「大変申し訳ございません、ゼルセール様。うちの護衛はまだ新人でして。ジル?下がって」
「…」
「ゼルセール様、お忙しいのにこのような機会を設けていただき感謝しております。
カルヴァン・ルシール・ロザリーにございます」
俺の行動に気分を害したのか、ふんっと俺を睨み付けるとグラン扮したロザリーに顔を戻した。
「今回は、婚約前の顔見せ。まぁ、よい」
「旦那様、お食事の用意が整ってございます。お客様もご一緒に」
後ろにいた若い執事が声を掛けてきた。
この屋敷には似合わない、えらく顔の整った若者だ。
銀髪というのも珍しい。
主人よりも目立ってんじゃねぇか。
俺たちは応接室を後にした。
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