第8話
魔法屋のある都市部からゼルセールの家がある街までは、馬車で行くと半日はかかる。
むしろ魔法の粉を利用して、全速力で走った方がおしりも痛くならないし、早いと俺は思う。
「あれ?アル、道、違ってね?」
ゼルセールの家のある街に行くには遠回りに進んでいる気がする。
先ほどの妄想事件があって俺は現在アルの隣に座らされている。
そもそも、護衛騎士が従者席ってのは傍からみて、変に映らないのだろうか。
「この道で間違ってないですよ」
「え、でも。あれ?」
本来なら、先ほどの道を真っ直ぐに行くべきだ。
「せっかくの休日で、しかも遠出をするんです。少し知り合いの顔を見に行くことにしたんです」
「アルの?」
「ええ、私の知り合いですが、お嬢様の知り合いでもあります。だいぶお歳を召して、最近は外に出ていらっしゃらないと伺っていたので。丁度よいかなと。ロザリー嬢の件に関しては、調整がすんでますし、ゼルセールの家には明後日到着する旨も伝えてありますから」
「へー。グランの知り合いって珍しいな」
「そうですか?まぁ、基本的にお嬢様は外に出たがりませんからね」
「確かに。基本、まほうやにいるもんな」
グランは基本、いつも『まほうや』にいる。
買い物も、アルと俺が基本している。
相談部屋で本を読んでいるか、雑貨店の売り物を作っているか。
「あれ?でも、本屋にはよく行くよな」
そうですね。とアルが笑う。
「本屋巡りはお嬢様の趣味ですね。変わった魔法の本や、古い文献なんかは特に。昔から、お嬢様は同年代の方よりも身の回りの品にお金を使うよりは、本を集める事が好きでしたね」
趣味と実益を兼ねて、敷地内に小さな図書館まで作っているからな。
そして、たまにふらりと王立の魔法学園の研究棟まで繰り出していたりする。
魔法と本の事になると、意外に行動的だが、それも月に2、3回だ。
若い女性にしては少ない気がする。
学園を卒業して暇もあることだし、今度グランを誘って何処かにデートに行こうかな。
「…お嬢様をデートにでも誘おうかな。とか思っていませんよね」
・・・・思っていました。
え、なにアル、こわっ。
若干引いた目でみるとアルが溜息を付く。
「童貞の考える事はお見通しです」
そろそろ、童貞ネタを止めてほしい。
「まぁ、でも、お嬢様の健康の為にもいいかもしれません」
よし、誘おう。
「ただ、お嬢様が外出するとき必ず私も行きますから二人でデートするという妄想は残念ながら止めておきなさい」
ニコリと整った天使の様な顔で、満面の笑みを俺の方にアルが向ける。
あー。
アルの背中に黒い羽が見える気がする。
まぁ、そうですよね。
知っていました。
アル、風邪とかひかないかな。
「因みに、私は健康には自信があります」
アル、俺の心の中、読むのすげぇな。
俺は二人っきりのいちゃいちゃデート妄想を泣く泣くあきらめた。
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