第6話
「そもそも、ゼルセールってやつは何故にこのアルカザイルの土地が欲しいわけ?」
さっぱりわからないとばかりに、シルベスターが首をかしげる。
「そういえば、シルベスターには教えていませんでしたね」
「そうか、記憶もないから昔の噂なんぞも憶えてはいないか」
「いや、学園で歴史の授業もあったから、アルカザイルが石喰いの墓場だって言われている事や、沢山の人がなくなった悲しい場所だってことは知ってるよ?でも、そんな場所に価値があると思えないんだけど」
石喰いの墓場と一部の者から言われる、アルカザイルの土地に関しては経済成長著しい平和な昨今、人々の記憶から忘れられる存在でしかない。
そもそも、アルカザイルには人は住んでおらず、復興もされず、捨てられた土地として放置されている。
戦争を経験したことのない人々も増えてきている。
戦争を経験した者にとっても忘れたい記憶だろう。
わざわざ平和な今の時代に、暗い歴史を語る者など誰がいようか。
「シルベスター。殺された人の石の色は何色か?」
突如アルがシルベスターに質問を出す。
「黒」
「正解」
「では、殺しを行った人の石の色は?」
「黒?」
ええ、とアルが頷く。
「一概に黒とは言い難いが、そもそも人を殺してしまうまでの闇を抱えているとなると黒に近い禍々しい色がでる事が多い。それでは、本題だが…殺されるかもしれないという不安と戦いながら母国を守る為、人を殺さなければならない人の石は何色か?」
「…複雑な…黒」
「正解。それも飛び切り綺麗な深い闇の様な色をしていると言われている。母国を守りたいという心によって染め上がった黒い石はとても綺麗なそうだよ。しかも大勢の石喰いがいた場所だ。そこらへんにある魔石より、随分と大きな石がごろごろ手に入る」
「でも、人は魔石を具現化出来ないよね?だったらアルカザイルに行っても石は手にはいらないんじゃない?」
シルベスターの疑問を受け、アルはにこりと黒い笑みでほほ笑む。
「石喰いが、戦っていた場所だよ?しかも、とても優秀な石喰い達が戦っていた場所だ。今では石喰いが、生きている者の魔石を具現化させる時、命までは奪えないと思っているようだけれど。魔石を奪うと同時に命すら奪う事が出来る石喰いも多く存在していた事は知っていますね?ましてや戦争だ」
待って。わかった…とシルベスターが手を額に当てながら目を瞑る。
「アルカザイルには、石喰い達が殺めた人の魔石がゴロゴロある、と」
石喰いが魔石を具現化させると同時に命を殺める事は可能だ。
命を奪った後に、死体から魔石を具現化させる事も。
ただ、命だけを殺める事は出来ない。
石喰いが人を殺めてしまう時、魔石もまた生まれる。
更に、石喰いが死ぬと同時にその石喰いの魔石が生まれるのだ。
石喰いの中での常識だ。
「それだけではない。」
側でアルとシルベスターのやり取りを聞いていたグランが口をはさむ。
「人質を取られた石喰い達が、殺し合いを初めてしまった所だ。石喰い達の良質な漆黒の魔石がゴロゴロしている場所なんだよ。尚且つ、食べる物などないその閉鎖された空間で、虐殺の中、生き残った石喰い達でさえ黒い石を食べ続けた反動で精神も肉体も病み、見るも無残な姿で生涯を終えたと聞いている。そして石喰いが死ぬとき、魔石が生まれる」
「当時のアルカザイルは、王の命令でもう逃げられないように回りを包囲されていましたからね。逃げても逃げなくても、彼らの運命は石になるしかなかったでしょうね」
「でも黒い石なんて欲しがるものなの?」
「具現化する石喰いの、存在自体が伝説となっている現在においては、黒い、それも良質な漆黒の石は大変高額でやり取りがされるらしい」
グランが溜息を付く。
「でも、戦争で殺された人のなんだよ?」
「だから、だよ。どこにでも、腐った人間はいるのさ。それに石喰いの石は滅多に手に入らないからね。黒いとはいえ、石喰いの石だ。喉から手が出るくらい欲しいやつらはわんさかいるさ」
軽蔑の色を目に宿しながらグランが呟いた。
「ん?…でも、だとしたら、欲しい奴らは皆アルカザイルに行けばいいんじゃない?カルヴァン家の土地だからって入っちゃダメって事にはなってないんでしょ?」
「今でもアルカザイルは、封鎖されているはずです」
アルが顎に白い手袋の手をやりながら、言う。
「え?そうなの?」
「だって、アルカザイル、本当は国有地だからねぇ。それにそんな黒い石がゴロゴロある土地、自分の魔石が黒く染まって数分で精神が病む。黒く染まりすぎると身体にだって影響が出る事は、シルベスターも知っているよね?そんな危険な場所に出入りするバカはいないはずなんだけどねぇ」
「え、アルカザイル、国有地なの?」
「そのはずだよ。しかも、禁足地として指定されていたはず」
ここからここまでね。と、グランがアルカザイルの地図を指し示す。
確かに地図にも、点線が引かれている事が解る。
「じゃぁ、何故、カルヴァン家が土地の権利書もってるの」
「そこだよねぇー。何故かな。…因みに、封鎖されているけど、入れなくはないかもね。大戦が終了してから何十年とたっているし、囲われてはいるらしいけど、人が立って警備しているわけでも管理しているわけでもない。だけど、普通の人なら、そもそも、足を踏み入れようと思わない。入ると数分で自分の魔石が黒く染まり精神と肉体に影響がでて廃人になる土地に、わざわざ入ろうとする人間の気持ちは分からない。…まぁ、でも、自分じゃない、誰かをそこに行かせて石を拾ってこさせる人はいるかもしれない」
「…それって、現在は、若い奴らをさらって、人命転換によって小ぶりの石を生み出しているけど、将来的には質の良い黒い石を持って来させるのが目的なのではないか…ってこと?」
『・・・・』
3人がそれぞれ顔を見合わせる。
「よし。聞かなかった事にしよう」
グランが即座に頷きながら、颯爽と席を立つ。
「そうですね。今回ばかりは、グランに賛成です。ロザリー嬢には悪いですが、これも借金を背負ってしまった父を持ってしまったが故の不幸。人生、救いの神など存在しません。何より、これは我々ごときが対処できる案件ではない気もいたします」
アルも席を立つ。
「まーてまてまてまてい!!それでも、やるのが『まほうや』じゃないんですか!?」
グランとアルがシルベスターから顔と身体を背けるが、シルベスターが二人の腕をつかむと離すまいと、服をぎゅっとつかむ。
「それに、ロザリー嬢はどうするんです?まほうやに相談されたのに、放置するんですか?」
…仕方がない。とばかりに盛大な溜息を付きながらグランとアルが天を見上げた。
「じゃぁ、深入りはしないって事でロザリー嬢だけ救う手立てを考えるからな」
グランが仁王立ちしながらシルベスターに顔を向ける。
アルは溜息を再び付きながら、いつもの無表情でシルベスターに向き合った。
「はい!」
二人の顔を見ながら満足したように、元気よくシルベスターが頷いた。
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