第2話


石畳の規則正しい道と、急速に広がっていったガルパン鉱石をふんだんに使用した石造りの建築物の中。

大通りからほんの少し小道に入ると、石造りの街には珍しい木造の小さな建物が見えてくる。

よく見ると木造なのは、道に面した入口だけなのだが、樹木の優しい感じが何故か街並みにはまっており、ほんの少しの安心感を与えている。


隣には、ほんの少しのオープンテラスの淡いピンクを基調とした喫茶店が更に和やかで可愛らしい雰囲気を醸し出していた。


木造のお店の看板には『まほうや』とひらがなで書かれ、大きい窓からは、店内の様々な色彩の食べ物や、星屑の香り袋と書かれたもの。

天体を催しているのか、一定の規則通りに動く星々など、様々な色とりどりの雑貨やお菓子が置かれているのが見える。


まほうやの窓の小さなスペースには、『隣の喫茶店でもお試しいただけます。』と書かれた夜空を模したポストカードが小さく貼り付けてある。


「開店しまぁーす。」


カランコロンと魔法屋のドアに掲げてある看板の小さな鈴の音が鳴り、中から金色の髪をした爽やかな青年が顔を覗かせ、店の前の「準備中」の看板を「営業中」に裏替えした。


出てきた青年は外で大きく背伸びをすると、今日も頑張りますか!とふん!と両腕を回しながら、また中に入っていった。



セイロン通りの『まほうや』には恋愛に利く魔法グッズが沢山ある。

というのが、学園に通う淑女たちのもっぱらの噂である。


まほうやのグッズをお気に入りの鞄や自分のステッキに付けたり、意中の相手に贈るのが近隣にある魔法や騎士の学園に通う生徒たちの、流行りとなっていた。


勿論、隣の喫茶店で学園帰りにちょっとお茶をして恋バナに話をさかせたりするのもまた、楽しい。


なんといっても『まほうや』の店員さんがイケメンなのも捨てがたい。

グッズを販売している方は、爽やかなイケメンで、喫茶店の方は、引き締まった身体から色気すら漂う、グッズ販売の店員さんより大人な雰囲気の楽しめるイケメンなのだから。


勿論、学園の授業中の午前から3時までの間には、高等部に通う淑女の皆さんや青年諸君の姿も見られ、こちらは、『まほうや』奥の別館『図書館』に高度な魔法の書物を求めてやってくる。


年齢層も幅広く受け入れているのが『まほうや』の魅力の一つであり、喫茶店と魔法屋の奥には小さな庭園まであるという、憩いの場としても重宝されていた。



その奥の一角に本日も悩みを抱えた女性たちや男性が通う、秘密の部屋の中で一人の女性が真剣に本を読んでいた。


「あ!店長―!!こんな所にいた!ちょっと展示の事で相談があるんですけどって昨日言いましたよね!」


またサボっているのかこの野郎と顔に書いてある気がするのは気のせいか。


「言われたが昨日の事なので忘れました」

「それ、覚えていましたって事ですよね」

「忘れていたということだ」


そうなのか?と、一瞬顔をしかめた金髪の青年だったが胸の銀時計を見て、あ!っと思いだす。


「開店しちゃってるんで、ちょっと急いで魔法屋の方に来てくださいね!」


小さな部屋の扉を開けっ放しにして青年が慌てて出ていく。


こちらの部屋でも仕事があるかもしれないじゃないか。と思ったが、まぁ仕方がないので出ていく事にする。


シルバーピンクの髪を無造作に束ねてくるっと頭上で巻き、青く光る銀のピンでとめる。

まほうやの営業は週に3回だ。

週に3回しかない為か、こぞってお客がやってくるのだ。

有難いことで。とふっと息を付くと青年の後をゆったりと追いかけるのであった。



***********************


事の発端は、とある貴族の縁談話からだった。


大戦の後、『獅子』を抱く貴族の称号を抱く者たちの数は減った事は減ったが無くなった訳ではない。


王も健在だし、貴族もいるが、身分の差は以前よりは無くなりつつはある。

が、『獅子』を抱く貴族間には、『獅子』を誇りに思うが故に勘違いをしてしまう者も未だ健在していた。


大戦後は、全ての民に門徒を開き、地方からでも魔法や武力に富んだ者は優先的に都市部の学園に通える様に計らえている。

成長の一途を辿るこの平和な流れに、民衆の中からは、自由恋愛の声が上がり『獅子』の貴族とでも結婚が可能となった。


この流れの中での、相談である。


「っていうか、その貴族、闇討ちしたらいいんじゃないの?」


物騒な意見を意見を言うのは店長のグランバッハである。

グランバッハ・アンゼリーゼ 

無造作に結ったシルバーピンクの髪が揺れている。

因みにアンゼリーゼの名を嫌い、仲の良い者にはグランと呼ばせている変わり者でもある。


「グランは物騒」

魔法屋の雑貨の方の店員である金髪の男、シルベスターが食べていたフォークをグランにピシッと向けて一言言い放つ。


「お前は、不作法」

フォークをグランに向けた仕草を指摘するのは濃い紫の目をした男、アルベスター。

アル、と呼ばれる事が多い。


「アル、これ、お代わり。あと、シルベスター、私の事は店長と呼べ」

グランはアルに、ん。と、お皿を渡す。

「今は、お店の営業時間じゃないもーん」

「じゃあ、母と呼べ」

『…』

それはどうだろう。

とアルとシルベスターの目が行きかう。

シルベスターの何かまた、この人変な事言い出したから、何か言ってやって!の目線からアルが心得た!とばかりに頷く。


「どちらかと言うと、お嬢様はシルベスターのお父様なのでは?」

「なるほど。私は父だったか。さぁ、シルベスター!お父さんと呼ぶがいい」

そうかそうか、と何故か納得したグランがシルベスターを追い込む。


違うだろう。

シルベスターの目が今日もうつろになっていく。


「冗談はさておき」


冗談だったんですね。そうですね。知っていましたよ。はいはい。


「今回は、我々が少しばかり介入してもいい案件だと思う」

「そうですね」

「…確かに、ちょっとやり過ぎていて、このお嬢様が可哀そうだよね」

「おや、お嬢様。シルベスタ―が青少年の扉を開けましたよ」

無表情から一遍、にやりとしながらアルがグランに向けてほほ笑む。


「開けちゃったかー」

「何!?その青少年の扉って!」

「大人の階段を上っていく事ですよ、シルベスター。本日のデザートはこれでおしまいのつもりでしたが、お祝いをしなければなりませんかねぇ」

「アル!まっ!俺はもう、高等学園を卒業した立派な大人だ!何!その!破廉恥な言葉!俺、何か変な事言った?」

『破廉恥!!』

アルとグランの言葉が揃う。

グランに至っては顔を真っ赤にして悶えている。


「まって!え?何?俺もう、大人だからね!」

「どうなることかと思っていましたが、やっとシルベスターがお嬢様以外のお嬢様に興味を持ち始めた今日この日をお祝いしないでなんとする」


アルが大げさに両手を手にあげて感謝の祈りをささげている。


「はー?」


え、待って俺、本当に何か変な事いったか?

このお嬢様可哀そうだよね・・・って言っただけ・・・・


は?

は?


「え、まって!!」


いや、まてまてまて。この人たち思考回路が元々変なんだけど、待って。


「俺、このお嬢様の事が好きとかなんとか、これっぽっちも思っていないからね!?


何度も言うけど!俺が好きなの!グランだから!!」


可哀そうと言っただけで、この仕打ち。

この人達本当、何ナノ。

何ナノって思うけど、そのグランが好きって、俺、何ナノ。


へこみつつも盛大にいつも通りの告白をするシルベスター。


「で、どうしよっか、アル」

「そうですね、夢落ち。という手もありますね」

「あ、いいね、それ」


と、いつも通り、真っ赤になって項垂れるシルベスターをそっとしておきつつ、今回の案件を考えるグランとアルであった。



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