8:敵国の再会

 ギイと重苦しい音を立てて、開門された瞬間、火矢がびゅんびゅんと飛んで来た。賊の類いと見られた攻撃を受けた。甘く見られている。こんな火矢くらいで逃げるか。


「てやっ」


 振り回して全部叩き落として、振り返ると、今度は強面の兵士がずらり。いかついおじさんの登場に愛琳は泣きそうな声で告げた。


「あたし、この国に用事あるね」

「生憎通行税が要るんでね。金がないなら帰った帰った」


「そういうわけに行かないね!」

「あ! この娘!」


 ぴょいんと飛び跳ねて壁に手をかけたところで取り押さえられた。肩を押さえられて堪らず紅の唇が拓く。


「上級なお姉ちゃんだなァ~~」


 愛琳の身体に兵士が手を伸ばし「へっへっへ」と笑った。この先の展開は見えている。芙蓉国の女官をナメるなと、股間を蹴り上げてやった。


「おい、押さえつけろ! 久々の上玉だぜ」


「全く軍師や皇族ばっかりに美味しいところ持って行かれちゃたまんねえよ。ナァ?」


 後ろ手で押さえられて愛琳は危機を感じた。咄嗟に叫んだ。叫ばないとと言葉も選ばず。


「梨艶――!!!!!!」


 ピタリと火矢が止んだ。愛琳自身も想定もしていなかった。目を見開いて辺りを見回している愛琳の様子に兵士たちは顔を見合わせ、吐息をついて愛琳を助け起こした。荒くれ者の顔をしたまま、ぶっきらぼうに扉を親指で指した。


「…...通れ」


 なんだ。なんだなんだ。まあいいか。通っていいようだし。


 愛琳はおずおずと「お邪魔するね…」と砦を潜った。


火矢すらもう飛んで来ない。狐に抓まれた気分で、愛琳は門を潜って初めて青蘭の都、揺籃ようらんを目の当たりにした。


「何、ここ……」


 想像していたような地獄絵図…なんかではない。花は咲き乱れ、中央に伸びた朱雀大路から玄武大路までは商人で賑わっている――。饅頭の露店を発見。安い!

 何も食べていないのを思い出して、愛琳は元気よく露店に飛び込んだ。有り金全部叩き出して饅頭を指差した。


「おじさん、五個!」


 はいよ!と元気のいい老爺はあの蓬莱都の饅頭の爺を思い出す。こんな風に饅頭を買ってた時に、一個ずつ饅頭が減って行った。

 何か懐かしいと目を細めた愛琳は垂れ目を吊り上げた。饅頭が足りていない。


「五個と言ったのに三個しかない! あたしお腹減ってるから三個じゃ足りないね」


「おかしいな」


 前と同じやりとり。しばしデジャヴに陥る。

 そう、蓬莱都の…....。

(まさか)

 あるわけがない。富貴后さまが変なこと言うから。


 その姿が視界に入って、愛琳は唾を呑んでしまった。


(どうして見つけてしまうのだろう?……)

ちょっと太ったおじさんや着飾った痩せたおばさん、イケてる彼女にモサい彼のカップル。武官の鋭い眼に子供たち。


 これだけの人間が溢れている中で何故見つけてしまうの?


 あれから五年だ。数年経っても変わらない…いや、頬の薄い傷は以前にはなかった。前髪が伸びて顔を半分隠している。それでも夜の色の深い瞳の綺麗さは隠せない。


「秀梨艶!」

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