四話 藤堂正道の宣戦布告 届かぬ想いの先にあるもの その六
「二人は結局、どうしたかったんでしょうね?」
伊藤の問いかけに何も答えられなかった。
俺達は一通り押水について話を聞いた後、左近に集めた情報を送り、青島中央公園で待ち合わせの約束を交わした。
俺達は約束した時間よりも少し早い時間に公園に来て、左近を待っていた。
その間、伊藤も何か思うことがあるのか口数が少ない。俺も今までの事を、空を見上げながら考えていた。特に気になったのは先程の秋庭先輩達の事だ。
押水は誰の告白も受けるつもりはない。それでも、押水は女子を救い続ける。
押水に苦しめられている人達の顔が目に浮かぶ。
恋愛が報われないと分かっていて、諦めるために告白を決意しようとしていた女子。
好きな人を応援する為に恋愛することを禁じ、
恋愛をあきらめ、みんなの幸福を願う女子。
恋愛と友情を諦めることができなかった女子達。
魅力あふれる人達だ。恋人ができていてもおかしくない人たちだ。
このままでは誰も報われない。誰も幸せにならない。
これでいいのか? だが、どうすればいい? どうすれば、みんなが報われるんだ? そんな方法はあるのか?
自分に何度も問いかけるが、答えは出なかった。そもそも恋愛に
伊藤は地面の石を蹴りながら、公園で無邪気に遊ぶ子供達を見つめていた。
「橘先輩、遅いですね」
「いや、まだ時間はある」
左近の情報次第で状況が変わるはずだ。待つだけっていうのはもどかしいな。
伊藤もそう感じたのか不満の声が出る。
「はあ~……早く来ないかな」
「呼んだ?」
俺達の後ろから声が聞こえてきた。左近だ。
「きゃ! も、もう、橘先輩! こんなベタはいりませんよ!」
「呼ばれたから返事しただけだよ」
怒る伊藤に、左近は肩をすくめる。
「正道、面白いことが分かったよ」
「面白いこと?」
左近はベンチに座り、調べてきたことを報告してくれた。
「まず、押水と高城と押水遥の関係。高城と押水遥は親友同士。押水一郎が正道の件で押水遥に泣きついた。高城は親友の弟が困っているのを助けたくて、風紀委員長に立候補したらしい。後は押水遥が僕を風紀委員長の座から
隣で伊藤はううっと
「押水が新たなスクールアイドルのプロデューサーになったのは女の子と仲良くなるだけじゃない。
「親友の弟を、好きな人を好きになるなんて、高城先輩って勇気ありますよね。どこまで女の子をはべらせたら気が済むんでしょうか、彼は」
伊藤の意見はもっともだ。
無理やり事を運べば
生徒会長がその事に気づかないはずがない。
「後ろめたいと思っているから、高城は押水遥のいいなりになっている状態だ。ここまでは想定内の話。次が本題。押水と佐藤と桜井の関係だけど」
左近は押水と佐藤、桜井のある出来事を話した。説明が終わると、伊藤は顔を真っ赤にさせ、怒りをあらわにしている。
「信じられない! それってひどい裏切りじゃないですか!」
「そうだね。これを知ったら三人の関係は壊れるね。切り札になるよ。使うかどうかは正道次第。後、押水と桜井の関係なんだけど、思っていたよりも深刻なことが分かったよ」
左近が押水と桜井の関係を、桜井が一人で抱え込んでいたものを話した。
この内容には俺も伊藤も絶句した。
「本当……なのか?」
「ああ、本人に直接確認したから間違いない。迷っている時間はもうないんだよ。すぐに行動を起こさないと大変なことになる」
左近の調査は
「……もしそれが本当なら、押水には本命がいて、アイツが押水の本命……」
「なわけないでしょ! 男なんて下半身と頭は別行動できる生き物なんですよ! ホント、サイテー!」
伊藤の発言に、俺も左近も反論しなかった。
決断しなくてはならない。だが、大事な決断だからこそ、慎重になるべきだ。感情に流されるな。そう自分を
しかし、確かめなければならない。本人は否定するだろう。なら、どうするか。
会いにいくしかない。押水に会って、嘘か本当か表情やしぐさから推察するしかない。
「僕の調査は以上。さっき連絡してきた件については、こちらで調べておくよ。これから、どうするの?」
「そんなことは決まっている」
俺はベンチから立ち上がった。
「正道、どこにいくの?」
「確かめてくる」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、先輩!」
押水と話してみよう。思い込みで決め付けるのはよくないことを、今までの経験で学んでいる。押水に会って、嘘か本当か表情やしぐさから推察するしかない。
押水一郎をもう一度、見極める。そこからだ。
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