四話 藤堂正道の宣戦布告 届かぬ想いの先にあるもの その七
「ちょっといいか?」
学園に戻り、廊下を歩いていた押水を呼び止めた。押水のそばには幼馴染の桜井と大島、生徒会長である押水姉がいる。
「だ、誰ですか、あなたは?」
「風紀委員の藤堂だ。前にも何度か会っているんだが」
「す、すみません。人の顔を覚えるのが苦手で」
「……よく言いますよね、名指しで姉に泣きついたくせに」
押水のとぼけた態度に、伊藤がぼそっとつぶやく。
別段気を悪くすることもなく、俺は話を続ける。
「話がある。時間をくれるか?」
「藤堂君、弟君に話があるなら私を通してってあれほど……」
生徒会長が話を中断させようとする。だが、ここで終わらせるわけにはいかない。
「だから、生徒会長がいる前で話をしています」
「それは
「あ、あの……バイトがあるんで」
押水は笑顔だが、明らかに迷惑そうな態度をとっている。それでもかまわず、
「すぐに済む。風紀委員として尋ねたい。キミはいろんな女性に好かれているが、誰と付き合うのか決めているのか?」
直球の質問に、押水は言葉を詰まらせる。押水のそばにいる三人は黙って押水を見つめていた。
「そ、それはその……あなたには関係ないじゃないですか」
「関係ある。キミのはっきりしない態度で多くの生徒から苦情がきている」
この問いに押水はお決まりの返事をする。
「ええっと、僕は好かれているだけで、恋愛とはまた別だと思うんですけど。僕、モテたことないですし」
「ならはっきり言おう。
二人の姿を思い浮かべ、俺は真っ直ぐに押水に彼女達の想いを告げる。それでも押水は態度を崩さない。
「か、勘違いです。本気じゃないですよ」
「そうか……俺は先ほど、二人に会って確認したんだがな。これでもまだ、シラを切るのか?」
押水はどんな反応を見せるかと思っていたら、逆ギレしてきた。
「ちょっと! いい加減にしろよ! どこまで邪魔したら気が済むんだよ!」
「邪魔していたことを知っていたのか? 俺のことは覚えていないと先程言わなかったか?」
「くっ! ハ、ハル姉からも言ってやってよ!」
押水は不利になったことを感じたのか、押水姉に助けを求める。押水姉は俺が普段の様子と違うこと、
「藤堂君。これ以上はプライバシーの侵害よ。風紀委員にそんな権限はないわ」
「生徒会長はそれでいいのですか? あなたの弟は想いを寄せている女性や親友を
「言いがかりです。これ以上、強引な対応に出るなら、考えがあります」
「どうぞご随意に。ですが、いいのですか? もし、私を黙らせたら、生徒会長も知らない彼の秘密が闇に葬られますよ」
「もったいぶった言い方ね。それは何かしら?」
押水姉は全く動揺していないな。手強い。それなら、押水を攻めるべきか。
「おい、押水。俺は絶対にお前のやったことを許さない。人として最低の行為だ」
「いい加減なことを言うなよ! 僕がいつそんなことをした! 本当、いい加減にして……」
「ラブレターはどこにいった?」
押水の抗議を
「ラブレター? なんのこと?」
一瞬、何を言われたのか分からない押水は、怒るのを忘れて聞き返す。
俺はゆっくりと押水に問い返す。
「佐藤友也君がキミに預けただろ? 裏は取ってある。もう一度言う。ラブレターはどこにやった?」
押水の顔が一瞬にして真っ青になる。まさか、俺に知られているとは思ってもみなかったのだろう。
「ラブレター? 弟君、どういうこと?」
予想外の事で生徒会長は混乱している。やはり、生徒会長はラブレターの件は知らないようだ。
「へえ、友也がラブレターなんて意外ね。もしかして、あんたたち、おホモだち?」
大島は押水を茶化している。
生徒会長の問いかけ、大島の茶化しに押水は慌てて返事する。
「ええっと、それは……そう! 友也にさ、頼まれてたんだ! ほら、僕って女の子の友達が多いから、友也の好きな女の子とたまたま知り合いなんだ。だから、代わりに渡してくれって。あいつさ、普段は女の子のことばかり話すくせに、いざって時にはチキンでさ。でも、友也がちゃんとその子に渡したほうがいいと思って、僕は女の子にラブレターを渡さなかったんだ。僕もラブレターの相手のことよく知らないし。ただ、それだけだよ」
「そうなの。それで相手は誰? 私の知っている子?」
大島の問いに押水は一瞬、言葉を失う。
「だ、誰ってそんなの言えないよ! 男同士の約束だし! それによく知らないし!」
「それがキミの答えか?」
俺の問いに押水は逆ギレする。
「そうだよ! もうなんなの、あんた! いい加減にしろよ! 何がしたいんだよ! 嫉妬してるの? なら僕を恨むのはお
「そうか。時間をとらせて悪かったな」
時間をとらせたことに、俺は頭を下げる。押水は俺を無視して大股で横を通り過ぎようとした。
「一つ言っておくぞ、押水一郎」
押水の足音が止まる。押水を見ることもなく、背中越しに宣言する。
「俺は受けた
「な、なんだよ、僕が何をしたんだよ! いい加減、僕の邪魔するのはやめろよ! お前が何をしたって、無駄だし。僕達の絆は強いんだよ!」
「絆……だと?」
押水のこの一言に、俺は強い嫌悪感を感じた。お前のハーレムのせいでどれだけの人が傷ついていると思っているんだ? 親友を騙して、心が痛まないのか?
押水を殴りたい
「そうさ! お前みたいに人の幸せを
怒りで理性が吹き飛びそうになる。
お前が絆を語るのか? お前は親友を、お前の事を愛している女性も裏切り続けているヤツが。
奥歯を
「……そうか、なら見えてもらうぞ。お前の絆とやらをな」
お互い、これ以上言葉も視線も合わせずにその場を去る。
もう、何も言うことはない。打ち解けることも、
徹底抗戦だ。
「桜井さん、体の方は大丈夫なのか?」
通り過ぎようとする桜井を呼び止めた。この一言で、桜井は俺に何を言われるのか分かってしまったのだろう。真っ青な顔をしている。
これではっきりとした。左近の調査内容は正しかった。
「本当にこれでいいのか?」
「はい。お願いですからあのことは……」
「分かっている。絶対に押水には話さないから安心してくれ」
桜井は頭を下げ、そのまま押水を追いかけていった。
「宣戦布告しちゃいましたね」
伊藤は嬉しそうな顔をしている。俺もつられて笑ってしまう。
廊下にはもう誰もいない。俺と伊藤だけだ。
「止めなくてよかったのか?」
「止める必要ありました? 私、カチンときました。迷ってた私が馬鹿でした! こうなったらどこまでも付き合いますよ、先輩。彼をやっつけちゃいましょう!」
伊藤は拳を突き出す。その勇ましい姿にふっと微笑むと、伊藤の拳に自分の拳を軽く当てた。
やるべきことは分かった。宣戦布告もした。
勝つために何をするべきか、何をなすべきか。今はわからないが、それでも必ず見つけてみせる。押水を倒す方法を。
今までの
さあ、反撃開始だ!
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