皇帝のものは皇帝に、神のものは神に ~それぞれ棲み分けましょう~
それから、ファリサイ派の人々は出て行って、どのようにしてイエスの言葉じりをとらえて、罠にかけようかと相談した。そして、その弟子たちをヘロデ派の人々と一緒にイエスのところに遣わして尋ねさせた。
「先生、わたしたちは、あなたが真実な方で、真理に基づいて神の道を教え、だれをもはばからない方であることを知っています。人々を分け隔てなさらないからです。ところで、どうお思いでしょうか、お教えください。皇帝に税金を納めるのは、律法に適っているでしょうか、適っていないでしょうか。」
イエスは彼らの悪意に気づいて言われた。
「偽善者たち、なぜ、わたしを試そうとするのか。税金に納めるお金を見せなさい。」
彼らがデナリオン銀貨を持って来ると、イエスは、「これは、だれの肖像と銘か」と言われた。
彼らは、「皇帝のものです」と言った。
すると、イエスは言われた。
「では、皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい。」
彼らはこれを聞いて驚き、イエスをその場に残して立ち去った。
マタイによる福音書 22章15~22節
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邪魔なイエスを何とか葬り去りたい権力側が、あの手この手でイエスに失言させて、揚げ足を取りとっ捕まえようと躍起になっている一場面である。まるで、一休さんをギャフンと言わせてやりたい、将軍様と桔梗屋さんみたいである。
イエスは、自分のことを神の子(ほぼ神だと言っているようなもの)だと言っていた。権力者にしたら、そんなことを堂々と言って人気を得ているイエスは、怖い存在である。
彼が民衆の支持を得て、日本で言う「百姓一揆」みたいなことをされては困る。
不穏分子は、早めに摘んでおかなければならない。
かといって、ただ殺したりしたら民衆の反感を買うし、暗殺なぞしたら、まず権力側が疑いの目で見られる。それもまずい。
一番いいのは、イエスが明らかに「権力側に反抗的である」証拠を挙げ、公的に糾弾すること。口は悪いがウソがつけない、とイエスのことを分析した彼らは、意地悪な質問をする。
神の子なら、理屈上皇帝より偉いことになる。
でもそれを口に出して言うと、死罪である。
江戸時代でいう「無礼討ち」「切り捨て御免」みたいなことになる。
かといって、イエスが自分は皇帝より下だと認めたら、神と名乗るなんてちゃんちゃらおかしい、とイエスのメンツをつぶせる。
どっちに答えても、イエスには都合の悪い質問を用意してきたのだ。
そして、展開はまさに一休さんと同じである。YESとNOのどちらに答えてもアウトな質問に、そのどちらでもない見事な答えをする。
「橋のはしっこを渡っちゃいけないんなら、真ん中を歩けばいいんだもんね~」みたいな。で、「さすがは一休さんだ~」みたいなことになる。
とんち勝負で負けた権力側は、尻をまくって逃げる。
もちろん、ここが単なるとんち勝負に見えるのは、信仰の立場で読まない場合である。信者的には(聖書研究的には)ここに様々な信仰的解釈がある。
私の書く記事は、キリスト教教義の主流をまったく支持しないため(笑)、ここでそれを紹介することにあまり意味はないので、割愛する。
今日は、イエスの言葉『皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい』 の意味にターゲットを絞って考えたい。
●お前らはお前ら、オレはオレ。
お前らの世界(基準)に、オレをはめ込むな!
その代わり、オレも自分の基準にお前をはめこまない。
実は、こういうことが言いたかった。
人は皆、それぞれ自分の宇宙(世界)を開いて、持っている。
その世界は、創造主であるその人のユニークな個性で彩られている。
それは守られるべき、大事なものである。
でも人は、得てして『自分の基準』に他者を当てはめようとする。
そして、相手がそれに従うことに偽りの「幸せ(快感)」を覚える。
この傾向が強いのが、権力者たち(王など)である。
権力側は、イエスが怖かった。
安心するために、自分たちの基準に従ってほしかった。屈してほしかった。
でもそれは、他人という別の宇宙の主人公を、失礼にも自分の世界に取り込んでしまう行為だった。
体裁こそ「世を混乱なく治めるため」だが、その実はただの支配である。
イエスは、言いたいことを言いしたいことさえできたら、あとは何でもよかった。
だから、相手も撃退し、自分の言いたいことも言える一挙両得のセリフは何かいな、と考えたところ、この名文句が生まれた。イエスにしてみたら「お、一句できた!」くらいのことだろう。
皇帝 → Aさん 神 → Bさん と置き換えて読んでみよう。
AさんのものはAさんに、BさんのものはBさんに。そうなる。
それは、モノ(所持品)という意味ではない。
Aさんの世界は、Aさんのもの。
Bさんの世界は、Bさんのもの。
それぞれ、違っていい。そしてそれは尊重されるべきである。
あなたは、時として周囲の人に対して、「自分の基準に従わせよう」としていませんか? 家族、友人、仕事仲間。相手を「説得」してませんか?
「恐喝」まがいのことをしていませんか? 子育てでもよくあることです。
もちろんこの世界はゲームですので、四の五の言わず強制執行するべき行動もあります。私は、自分の小さな娘が道路に飛び出したら、「宇宙の主人公が選択しているのだから」、などとおかしな尊重をして眺めてなどいません。
必死に、止めるでしょう。力づくでも。
ただ、そういう範疇とは別で、できるかぎり他者の宇宙を尊重しましょう。
でも、その前にやることがあります。
相手より、自分が先です。
●自分を、好きになりましょう。
自分の世界を、受け入れましょう。
他者に優しくできるから自分にも、という順番はウソです。
この場合、自分を好きになるということに関して誤解があります。
いわゆる「好き好き~自分素敵!(はぁと)」という意味ではありません。
そんなこと言えば、男の子はジャニーズ系、女の子はAKBに入れるような子しかムリでしょう。
筆者が「好き」という言葉を使う場合——
いわゆる「好き好き、大好き!」という、力は強いが不安定で、熱しやすく冷めやすいエネルギーの流れの事ではない。ただ「あるがままを受け入れる」「ただそうであるだけ、ということを認める」という、落ち着きのある安定したエネルギーの流れの事を言う。
人を変えたい、と願うのは「恐怖」が動機である。
それが例え、常識的に「良いこと」であっても。
その善意も、身もふたもない言い方をすれば「自分の都合のいいように相手を支配したい」だけ。
相手が問題を解決したら。その状況から脱出したら。確かに相手の幸せには見えるだろう。でもそれは、自分の中のある部分に目をつぶっていることになる。
●結局、それを見ているあんたが一番得をするからだろ。
安心するからだろ。
他者への働きかけは、どんなにごたくを並べても——
全部、自分のためなんだ。
だって、あなたの宇宙にはあなたしかいないんだから。
だから、他者に何もするな、と言うのではない。
それを認めろ、と言っているのだ。認めたうえで、確信犯的にこの世で生きる。
認めないで、「人のため。世界のため」とか言って運動し、実際に自分のする行為が人を「救う」なんて思っているなんて、お笑いである。
あなたは、何をしたって自分のためのことしかできない。
だって、あなたの宇宙にはあなたしかいないのだから。
現象上、心から自分のためにしたことが結果として他者や世界のためになっているような状況が観察される、というだけのことである。
世界が平和になったり、多くの人が幸せになるとすれば、それは——
●それぞれの宇宙の主人公が、自分の生きたいように生きれた結果の、副産物
……でしかない。グリコのおまけである。
オマケだけを買うことはできない。本体を買ってこそ、オマケがついてくる。
世界の指導者たちは、まだまだ人為的な努力でその「オマケ」だけをゲットできると勘違いしている。だから、世の中には各種の「運動」「実践」が存在する。
趣味でやる分には、いい。
ただ、それらの「行動」が実際に何かを変えられると勘違いしないほうがよい。
世界を本当に変えるのは、ただ「自分の世界を愛し、その魂の願いに優しく生きる」ことだけ。
この新時代は、次の認識が大事になる。
●結局誰でも、自分のためのことしかできない。
でも、その「自分のため」を自然にやっていくなら結果として——
それが全体として自然に調和していくという驚くべき奇跡を見ることになる。
少なくとも、私自身は自分のためにしか生きてない。
やりたいようにやっており、決して誰かのためではない。
家族すら、趣味で養っている。一緒に生きたいからであって、父だからとか結婚したから、とかからではない。本書だって、私が言いたいことを勝手に言う場である。
それを、皆さんが勝手に読んでいるだけである。広まるかどうかとかは、沢田研二ではないが「勝手にしやがれ」の世界である。好きなようにやっていく中で、広まる時は広まるだろうし。そうでなくても、それもまたよし。
いい加減、「世のため、人のため」なんて恰好のいい美辞麗句は捨てて、自分のためにしか生きれないことを潔く認め、自分の世界をエンジョイしませんか。
ルパン三世のアニメの主題歌に、こういう歌詞の一節がある。
男には 自分の世界がある たとえるなら
空をかける ひとすじの流れ星♪
…女性の方にだって、自分の世界くらいもちろんあるが。(苦笑)
的外れな想像しかできない他人の世界よりも、まずは一番よく分かる自分の世界を大事にしてみましょう。そのあとで、結果として(オマケとして)他者の世界も尊重できるようになります。
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